第100回 合併で不動産鑑定価格が急激に減少することの影響について【J-REIT投資の考え方】

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第100回 合併で不動産鑑定価格が急激に減少することの影響について【J-REIT投資の考え方】

J-REIT価格は、下落基調になっています。23日に英国で実施されるEU離脱に関する国民投票を控え、投資家のリスクオフの動きがJ-REIT価格にも影響を与えている状況です。東証REIT指数は、前回連載(6月9日)以降は1,900ポイント以下で推移し、1,850ポイントを挟む展開が続いています。仮に英国がEU離脱となった場合には、大幅な調整が避けられないものと考えられます。

さて今回は前回連載で予告した通り、合併に伴い不動産鑑定価格が急激に減少する事例が生じることになったため、その影響について記載していきます。その事例とは、野村不動産マスターファンド投資法人(証券コード3462、以下NMF)とトップリート投資法人(証券コード8982、以下TOPR)の合併(以下、本合併)において、鑑定価格が短期間で急激に変動したものです。
前回連載でも記載した通り、本合併で吸収される銘柄となったTOPR保有18物件(※1)の不動産鑑定額は、直近決算期(2015年10月期)の1,715億円強(※1)から合併時により1,377億円(※2)まで20%近く低下する想定となっています。つまり合併に伴って、鑑定評価額が338億円も減少することになるのです。またTOPRの鑑定評価額は、前々期(2015年4月期)に1,708億円(※1)となっていたことが示す通り順調に回復していました。従ってTOPRの鑑定評価額は、合併に伴い急変することになりました。
この要因は、異なる不動産鑑定士が評価している(※3)という点が挙げられます。不動産鑑定評価は、異なる不動産鑑定士が行えば違う評価額となる可能性が高いものとなっているためです。しかし、不動産価格が高騰している状況ですので鑑定士が異なったことが前述の通り20%もの鑑定価格下落の主要因とは考えられません。
従って、別の要因が考えられます。J-REITなどの証券化された不動産の鑑定評価は、単純化すれば評価対象物件の純収益見通しを還元利回りで除して算出しています。この中で還元利回りは収益の変動リスクを一定程度織込んで算定される数値であることと前述の通り低金利を背景に不動産価格が大幅に高騰していることから、鑑定士が異なることで大幅な変動が生じるとは考えられません。つまり合併で鑑定評価額が大幅に減少した要因として、鑑定評価を行う際の収益見通しが大きく変動した可能性が指摘できます。
収益見通しが大きく変動することになった要因として、大口テナント退去が現実化したことが挙げられます。TOPRが晴海(東京都中央区)に保有する2棟(取得額合計530億円)は、2016年4月に住友商事が大手町(東京都千代田区)に2018年秋を目処に移転することを公表したため、今後の収益見通しが大幅に変動する可能性があります。また2016年6月にはTOPRの保有物件であるイトーヨーカドー東習志野店(取得額89億円)のテナントであるイトーヨーカ堂が2017年6月に退去することになりましたので、この物件の収益見通しも大幅に変動することになりそうです。
現時点では、NMFの受入れ価格は総額が公表されていますが個別物件までは開示されていません。従って、この3物件が鑑定評価額338億円減少となった大半の要因であれば、例外的な事例と言えるためJ-REIT市場への影響はないと言えるでしょう。
しかし、この3物件以外にも不動産鑑定額が収益見通しの違いによって大幅に変動していたとすればJ-REIT市場への影響が生じることも考えられます。その理由として不動産鑑定額は、J-REIT市場においては重要な数値となっているためです。
具体的には、スポンサー関連の会社から物件を取得する場合は鑑定評価額を上限としている銘柄が大半を占めています。これは、スポンサーからREITが不当に高値で物件を取得しないようにするための規定です。しかし、不動産鑑定士に違いによって鑑定額が大幅に変動するとすれば、今後REITは複数の不動産鑑定士から鑑定評価を受ける必要が生じる可能性があるのです。
また上場していない私募REITの投資額の算定も不動産鑑定額を基礎として算出されることになっています。単純化すれば、含み益が10%増加すれば投資元本も10%増加するという算定方法です。しかし別の不動産鑑定士が算定した場合には、評価額が大幅に変動するということになれば、投資価格の短期間な変動を嫌って私募REITに投資を行っている年金や機関投資家などの離散を招く可能性もあるのです。さらに投資家の視点で見れば、鑑定評価額を基準に算出されるNAV倍率(※4)も何ら意味を持たない数値となります。
不動産鑑定額はあくまでも鑑定士の意見に過ぎないということがJ-REIT市場の前提とはなっていますが、実際には上記のように様々な影響を及ぼすことになります。従って投資家としては、不動産鑑定額にはこのように短期間で大幅に変動するリスクがあることを認識しておく必要が高いものと考えられます。

※1:合併前に売却する1物件除外した金額
※2:「合併説明会資料2016年5月26日」に拠る。
※3:本稿時点では、NMFの受入価格を算定した不動産鑑定会社は公表されていない。
※4:価格÷1口当たりNAVで算出する数値。NAV(Net Asset Value)は純資産に不動産の含み損益を加算して算出する。


コラム執筆:アイビー総研株式会社 関 大介

<本内容は、筆者の見解でありアイビー総研株式会社及びJAPAN-REIT.COMを代表したものではありません。個別銘柄に関する記載がある場合は、その銘柄の情報提供を目的としており、お取引の推奨及び勧誘を行うものではありません。また執筆時点の情報を基に記載しております。>

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