第17回 ドル高の影響に注目 【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

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第17回 ドル高の影響に注目 【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

英国民が欧州連合(EU)を離脱するとの判断を下しました。僅差だったとはいえ、国民投票でこのような結果になると予想した向きは非常に少なかったのではないかと思われます。投票締め切り直後の民間調査では、残留が多数になっていたことから、株式には買いが入り、ポンドやユーロも対ドルで堅調に推移していました。しかし、結果は離脱派が多数となり、市場はパニック的な売りに見舞われることになりました。予想していなかった事態に市場は驚き、株式には大量の売りが出る一方、ポンドやユーロが大きく売り込まれました。投票翌日のポンドドルは1.4870ドルから1.33ドル割れまで売り込まれ、1985年以来の安値をつける場面がありました。またユーロドルもこの動きにつれる形で1.1290ドル台から1.09ドル割れ目前にまで売り込まれました。下落過程では、いわゆるアルゴリズム取引や人工知能(AI)などを利用した取引も大量に入っていたもようであり、これが下げを加速させた可能性も指摘されています。当日の値動きを見る限り、その可能性はきわめて高いといえそうです。市場参加者の構成や取引手法が大きく変わりつつあるときです。いまはその過渡期であり、今後も荒い値動きが続くことになりそうです。

さて、今回の英国のEU離脱に伴うリスクとしては、欧州通貨安があります。つまり、ドル高になるリスクがあることになります。米国としては、ドル安にすることが国益と考えている節があります。昨年まではドル高を吸収できるだけの景気や企業業績の強さがありました。しかし、今年に入ってから、ドル高の影響で多国籍企業の業績への不透明感が強まりました。このような状況もあり、米国サイドはドル安を望んでいるとみられます。過去のダウ平均株価とドル指数の動きをみると、前年比ベースではかなり明確かつ密接な関係が見られます。つまり、ドル高基調になると、ダウ平均株価は下落しやすい傾向があり、その逆にドル安基調では株価は上昇しやすいという傾向がみられます。このような関係を考慮すれば、米国サイドが現時点でドル安を志向するのも分かります。これは、日本の事情と同じともいえます。日本株も輸出企業が多いことから、円安基調では株高になりやすく、その逆で円高の際には株安になりやすい傾向があります。先のG7やG20では、通貨安競争は回避すべきとの合意がなされており、さらに経済の立て直しに通貨安を利用してはならないとされています。しかし、現実には日本は現在の円高に苦しみ、円安への転換を目論んでいますが、これを米国がけん制する構図にあります。しかし、実は米国こそが通貨安を必要としているわけです。

したがって、米国サイドとすれば、今回の英国のEU離脱を受けた欧州通貨の下落に歯止めを掛ける必要があるということになります。しかし、今回の結果としてのドル高は、米国外の出来事が背景にあり、米国も手の打ちようがない状況なのかもしれません。現時点で、7月26・27日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、利上げは見送られることはほぼ確実ですが、利上げ見送りだけではドル高を是正するのは難しそうです。市場の一部には、量的緩和策の導入の可能性を指摘する声も聞かれます。今後、市場に想定外のショックが走った場合には、思い切った政策が打ち出されるかもしれません。いずれにしても、当面はドル高基調の米国株への影響と米国の金融政策の動向をよく見ておきたいところです。

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江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)

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