第20回 米国経済指標の鈍化傾向に注意 【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

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第20回 米国経済指標の鈍化傾向に注意 【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

米国経済指標にやや陰りが見え始めています。先週末に発表された第2四半期(4~6月)の実質GDPは年率換算で前期比1.2%増となりました。数字自体は大きく落ち込んだわけではないのですが、市場予想を下回ったことや、最近の数値が低迷していることもあり、景気の鈍化が懸念されています。これを受けて、米連邦準備理事会(FRB)が利上げに対して慎重姿勢を強めるのではないかとの思惑から、ドルが対主要通貨で大きく下落しました。これまで比較的堅調な指標が多かっただけに、市場の見方がややネガティブになりつつあるように感じます。これを受けて、ニューヨーク連銀のダドリー総裁は「米国経済へのリスクが残る」と指摘した上で、「FRBは利上げを慎重に検討すべき」とし、年内利上げの可能性が低いとの認識を示しました。また「年内の政策引き締めを排除するのは時期尚早」としつつも、英国のEU離脱決定の影響やドル高を踏まえると、ネガティブなショックがポジティブなものよりも大きいとしています。ただし、景気や労働市場が急速に改善した場合には、11月の大統領選挙の前でも利上げを行う可能性を示唆しました。結局のところ、イエレンFRB議長が繰り返すように、「利上げの判断は景気動向次第」であり、景気回復が緩やかであれば、FRBの対応もゆっくりとしたものになりそうです。

一方、ダラス地区連銀のカプラン総裁は弱いGDP統計を受けて、「ひとつの経済指標に過度に反応することがあってはならない」との考えを示し、9月の次回連邦公開市場委員会(FOMC)までにGDPの勢い、労働市場の改善、インフレ率の進展などに関する情報に注視し続けるとしています。またアトランタ地区連銀のロックハート総裁も、「9月のFOMCで利上げに踏み切る可能性を除外することは時期尚早」としています。地区連銀総裁やFRB理事は、米国内のこれまでの堅調な経済指標や過熱しているとみられる商業用不動産価格などの抑制のため、できれば利上げをしたいと考えています。彼らは米国内の状況を重視したうえで、利上げのタイミングを模索しています。しかし、イエレン議長やフィッシャーFRB副総裁、前述のダドリーNY連銀総裁などは、海外情勢を注視しており、海外市場が不安定になった場合、米国の事情だけで利上げは出来ないとのスタンスです。いずれにしても、利上げのタイミングについては、判断が非常に難しくなっているといえます。

今週に入ってからは、米国経済指標の鈍化がさらに多く見られます。製造業受注額は相変わらず軟調です。また7月のISM製造業景況指数は52.6と、前月の53.2から低下し、ISM非製造業景況指数も55.5と、前月の56.5から低下しました。さらに非製造業の内訳をみると、新規受注が60.3と前月の59.9から低下し、雇用も51.4と前月の52.7から低下しています。ちなみに、製造業指数と非製造業指数を3対7の割合で複合し、前年比で比較すると、米国株の動きに非常に似た推移になっています。2009年以降の相関係数は0.74と高く、株価の先行指標ともいえます。ちなみに、この関係から導き出される米国株の理論値は、現行の水準の8%程度下の水準になります。つまり、今年3月初めごろの水準で、ダウ平均株価に当てはめるとおおむね16,850ドル程度になります。この点からも、8月は米国株の調整の可能性を念頭に入れておきたいところです。8月相場がやや波乱含みとなれば、9月利上げは見送られることになりそうです。

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江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)

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