第23回 低金利バブルの崩壊リスクに要注意 【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第23回 低金利バブルの崩壊リスクに要注意 【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

これまで堅調に推移してきた米国株に変調の兆しが見られます。利上げ時期が近いのではないかとの思惑から、投資家心理がやや不安定になりつつありますが、実際には利上げが近いことが理由ではなく、より根本的な問題、つまり「低金利状態の反転リスク」が背景にあるのではないかと考えられます。今年に入ってから、米国株は昨年末の利上げによるショックで大きく下落しましたが、その後は過去最高値を更新するほどの堅調さを見せました。しかし、米国の主要企業の業績は伸び悩みが続いており、株価と業績のかい離が拡大しました。つまり、投資家は業績に対して割高な水準にある株価を買い上げていったわけです。その理由の一つが世界的な低金利です。世界的なデフレ傾向の中、日欧の中央銀行はマイナス金利政策を推し進める一方、米国の長期金利は低迷しました。投資家は運用難に陥り、相対的に利回りが高く、安全性も高い米国債に資金を流入させました。しかし、すべての資金を米国債に回すわけにはいかず、相対的に安全な投資先と考えられる米国株に資金を投じました。低金利による運用難の状況が投資家を米国株に向かわせ、結果的に米国株は過去最高値を付けるに至ったわけです。

ということは、金利が逆回転し始めると、これらの投資行動はすべて巻き戻されることになります。そのきっかけとなったのが、先のドラギECB総裁の理事会後の記者会見です。ドラギ総裁の受け答えから、ECBがこれまでの政策の限界を理解し始めているように感じられました。資産買い入れ額の増額や期間の延長、マイナス金利の導入など、これまで様々な政策を導入しましたが、デフレの払しょくや通貨安など、政策が意図した結果は出ていません。結果的に、これらの政策は効果がないとの見方が市場に徐々に広がり始め、金利の低下余地はないとの理解が最近の米国債の利回り上昇に反映されているように思います。このような背景による投資マネーの巻き戻しが先週9日の米国市場で見られたというわけです。金利はいったん上昇すると、歯止めが利きにくい傾向があります。金利の低下余地がないとなれば、国債には売りが出やすくなります。そうなれば、金利上昇にさらに拍車がかかるという、負のスパイラルに陥ることになり、当然のように株式市場にも大きな影響が出ます。このように、世界的低金利を背景とした国債への過剰な投資や、その代替として流行した米国の高配当銘柄への投資などが巻き戻されるリスクが急速に高まっています。「低金利バブル」の崩壊が近いとすれば、リーマンショックとまではいかなくとも、相応の調整が起きる可能性があります。9月15日でリーマン・ブラザーズが破たんしてから8年が経ちました。この8年というサイクルが、米国市場にとって鬼門であることは、前回の本欄でも指摘したとおりです。さらに今年は米大統領選の年ですが、報道によると、民主党候補のクリントン氏の体調不良問題が浮上しているようです。過去の経験則では、共和党候補のトランプ氏が勝利すれば、かなりの確率で米国株は急落することになりそうです。このように、様々な要因から米国株の調整リスクが高まっているように感じます。さらに言えば、9月後半は米国株が下げやすい傾向がかなり鮮明である。20・21日のFOMCをきっかけに市場の方向性が大きく変わるのか。来週はきわめて重要な週になりそうです。

20160916_emori_graph01.JPG

江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)

マネックスからのご留意事項

「特集1」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧