第106回「日銀のETF購入について」 ETF解体新書

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第106回「日銀のETF購入について」 ETF解体新書

こんにちは。晋陽FPオフィス代表のカン・チュンドです。日銀は9月20日及び21日の金融政策決定会合で、ETFの買い入れ枠を年6兆円とする方針を維持しました。そもそも日銀が、金融緩和の一環としてETFの買い入れに踏み切ったのは2010年10月のことです。当初の年間購入枠は4,500億円でした。その後、13年4月に黒田総裁による異次元緩和導入で、購入枠は1兆円に膨らみます。そして、14年10月の追加緩和で年3兆円まで増加し、今年7月の金融政策決定会合では購入枠を年6兆円としました。投資信託協会の「2016年8月投資信託概況」によると、国内ETFの純資産残高は約16兆4,000億円となっていますが、その5割以上は日銀によって保有されています。ETF市場にとってこれは健全な姿とは云えません。

一方、日銀のETF買い入れが、株式市場を下支えしてきたのも事実です。原油安の影響や中国、米国の景気の先行き懸念、また円高の進行などで外国人投資家が日本株を売り越す中、日銀がそれらの売りを吸収してきたためです。実際、日銀はETFの大量保有を通じて、銀行や保険会社のような機関投資家を抜き、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に次ぐ上場企業の大株主になっているのです。

ブルームバーグのこちらの記事を参照してみましょう。
『大株主「日銀」、17年末に日経平均4分の1で筆頭-ETF増功罪』
(外部サイトへ遷移します)

上記記事によりますと、8月初旬の時点で、日経平均株価を構成する225銘柄のうち75%の企業で、日銀が大株主の上位10位以内に入っているとのこと。たとえば、楽器・音響のヤマハは日銀が事実上の筆頭株主状態にあると伝えています。日銀という大口投資家は、ETFを通じて日本株を保有するため、個別企業の選別や監視を行うわけではありません。「この会社は業績が悪化したから売ろう」とか、「この会社は利益が増えそうだから買い増ししよう」という判断はしないのです。したがって株主としての日銀が今後も影響力を増すと、健全な株価形成の妨げになることが懸念されます。

また、これまで日銀のETF購入は、基本的に指数が下落したときに行われてきました。これは相場が下落すれば、日銀が買い支えてくれるという安心感につながりますが、一方で、株式市場が主体性をなくし、多様な価値観を反映しなくなる危険を孕んでいます。
そもそも、資産価格に働きかけるという主旨で日銀が株式ETFを購入することは、中央銀行の役割を逸脱しているのではないでしょうか。短期的にはマーケットを下支えするでしょうが、長期的に見ると、日銀が保有するETFの売却をどのようなポリシーで行うのかという難題が待ち受けています。ETFが金融政策に利用されている実態は、一ユーザーとしてはたいへん残念に思います。


コラム執筆:カン・チュンド

晋陽FPオフィス代表
2000年にFP事務所を開業以来、資産運用に特化したセミナー、コンサルティング業務を手がける。

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