マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
米国株は高値圏を維持しています。9月のISM製造業・非製造業景況感指数が市場予想以上に堅調な数値になり、米経済への不透明感が払しょくされつつあることが買い安心感につながっています。また原油価格が50ドルを超える強い動きにあることも、米国株にはポジティブに作用しているようです。そのため、7日発表の9月の米雇用統計の内容次第では、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げの確度がかなり高くなりそうです。市場での12月の利上げ確率も60%を超えるなど、徐々に切り上がってきました。米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げのタイミングを慎重に見極めるでしょうが、米国内の商業用不動産価格の動向や堅調な雇用を考慮すれば、早々に利上げしておきたいというのが本音でしょう。その一方で市場金利が先行する形で上昇し始めています。これまで米国株を支えてきたのは低金利でした。金利上昇やそれに伴うドル高が米国株にどのような影響を与えるかに注目したいと思います。
さて今回は、資産価格の実証的研究で2013年ノーベル経済学賞を受賞した、米国のロバート・シラー教授の考えに基づく米国株の評価をご紹介したいと思います。シラー教授は「S&Pケース・シラー住宅価格指数」を開発したことで知られていますが、「CAPEレシオ」の開発者としても有名です。CAPEレシオは正式には「S&P 500 Cyclically Adjusted Price-Earnings Ratio」と言います。「Shiller P/E」とも呼ばれています。CAPEレシオは、株価を1年間の利益で割って算出する株価収益率(PER)とは異なり、過去10年という長期間の利益・配当、さらに物価変動も考慮して算出します。つまり、景気循環の影響を除き、企業の実力を株価と比較する指標です。一般的には、CAPEレシオが25倍前後まで上昇すると、株価は割高と判断されます。CAPEレシオは、直近では8月に27.07倍にまで上昇していました。前述のように、25倍を超えると割高と判断するのであれば、今の米国株の水準はすでに割高圏にあるとの判断になります。
それでは、過去にCAPEレシオはどの程度まで上昇し、その後株価はどのような末路を辿ったのでしょうか。直近の高水準だった時期は、2000年のITバブルです。1999年12月にはなんと44倍という、途方もない数値に達していました。ここまで上昇すれば、株価が暴落により調整されるのも仕方がなかったと言えそうです。その前になると、1966年の24倍、さらに1929年の32倍などがあります。1929年には「世界恐慌」が起きました。米国株は大きく下落し、株価水準の回復に8年間もの時間を要したことはよく知られています。現在の27倍という数値自体は、過去の水準と比べても、すでに十分に高いと言えます。しかし、この水準を買っている市場参加者がいるからこそ、米国株は歴史的高値圏を維持しているわけです。この投資行動をどのように判断するかは、それぞれの投資家の考え方次第ですので、ここでは言及しないことにします。ただし、過去データで見れば、歴史的な割高圏にあることだけは確かなようです。来週以降、第3四半期(7月~9月)の企業決算の発表があります。減益予想もあるようですが、そうなると6四半期連続での減益になります。それでも米国株が高値を維持できているのは、企業が収益の大半を自社株買いと配当により株価を維持させているからにほかなりません。このような構図にあることも、念頭に入れたうえで米国株に対処することが肝要でしょう。
江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)
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