第26回 米大統領選後の政策でドル/円は決まる【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

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第26回 米大統領選後の政策でドル/円は決まる【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

米国の大統領選挙が最終局面に入ってきました。現地19日には、第3回目の大統領候補者によるテレビ討論会が実施されました。これまでの経緯をみると、米国のメディアはこぞってクリントン氏の支持を表明しているようです。これを受けて、トランプ氏は「政府による情報操作」「選挙自体が操作されている」との批判を始めるようになりました。最終局面で何とか事態を打開したいところでしょうが、分が悪いことは否めません。しかし、討論会の直前でも支持率の差が5ポイント程度だったことを考えると、今回の大統領選はまさに異例づくめだったといえるでしょう。また共和党幹部が候補者であるトランプ氏と距離を取り、大統領選での勝利を望まず、むしろ議会選挙での議席確保に注力する旨の発言をしていることも、異例の事態です。討論会終了直後にCNNテレビなどが実施した世論調査では、クリントン氏の支持率が52%、トランプ氏が39%となったもようですが、現時点でもまだ接戦の状況であり、まだまだ予断を許さないといえそうです。

さて、今後の米国大統領選挙の結果次第では、為替市場も大きく動きそうです。一般的に、クリントン氏とトランプ氏の両者の政策を推し進めると、円高になるとみられているようです。そこで、最近の政権とドルの動きを、米国の財政収支を使いながら見てみたいと思います。米財政収支の対GDP比をみると、1989年から1992年の大統領選挙までのブッシュ(父)政権(共和党)では、財政赤字の対GDP比が悪化し、ドル指数は下落しました。ただし、その下落は比較的緩やかだったと言えます。1993年から2000年の大統領選挙までのクリントン政権(民主党)では、財政収支は大きく改善し、ドル指数もドル高基調に転換しました。このときに出てきたのが、「強いドル」を声高に宣言したルービン財務長官です。その次は、ブッシュ(子)政権でした。このとき、財政赤字は大きく悪化し、つれる形でドル指数も下げました。2009年からのオバマ政権では、当初4年間の財政収支の方向性は明確ではありませんでしたが、政権後半の4年間で財政赤字は縮小に向かいました。その間、ドル高基調が鮮明になりましたが、その後は改善ペースが極端に落ち込み、ドルも上値が抑えられました。

このように、過去は民主党政権の方が財政改善・安定でドル高になっていました。この関係が続くとした場合、クリントン氏が大統領になれば、ドル高になりそうですが、一方で現時点で示している政策を推し進めると、軍事費の拡大や保険料の増額などにより国家財政への負担が増え、財政は悪化しそうです。そうなると、ドル安になりやすくなります。一方、トランプ氏は「連邦法人税率を15%とし、海外利益に対する税率は10%に下げる」と前例のない改革案を掲げています。この法人税改革は、慢性的な財政赤字と投資不足に悩む米国の経済構造を再び変える可能性があります。また還流資金が増加すると、結果的に2005年のようにドル高・円安が進むかもしれません。ちなみに、ドル/円は同年1月の101円台から12月には121円台にまで円安が進みました。一方、クリントン氏は海外資金への課税し、海外利益への課税猶予をやめ、海外子会社に直接課税する考えのようです。このような点も、為替市場に大きな影響を与えるでしょう。政権の方針次第では、ドル/円はその方向性が大きく変わってきそうです。11月8日の大統領選後も具体的な政策内容に要注目です。


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江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)

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