第29回 OPEC減産合意の今後の影響【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第29回 OPEC減産合意の今後の影響【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

OPECは11月30日にウィーンで定例会合を開き、生産量を日量3,250万バレルに設定することで合意しました。合意は2017年1月から半年間有効で、減産は08年9月の総会以来、8年ぶりとなります。今回の決定により、現在の生産量の水準である日量3,364万バレルから約120万バレル減産されることになり、需給の大幅な改善が想定されます。世界の石油需要は毎年おおむね日量100万バレル程度増加しています。つまり、今回の減産が順守され、世界景気が大きく崩れなければ、現在の需給バランスは来年には現状から日量200万バレル以上も改善されることになり、生産量を増やさないと、むしろ逼迫に向かう可能性さえあります。一部には、OPECの減産で原油価格が上昇すれば、OPECの減産分を米国のシェールオイル企業が増産するため、今回の減産の効果はないとする向きもありますが。しかし、現在では米国のシェールオイル企業は安値で積極的に生産することはなくなっています。また、競争力のあるシェールオイルでさえ、生産コストは45ドル前後とみられています。米国全体の石油会社の損益分岐点を考慮すれば、持続的な原油生産には最低でも50ドルは必要な状況です。世界的にも現状の原油価格で経営を継続できる産油国・生産者は皆無に近い状況です。このような状況から、今回のOPECによる生産枠の決定をきっかけに、WTI原油は45ドルを底値に45-50ドルのレンジを上抜ける可能性が高いでしょう。その後は50ドルの大台を固めながら、55ドルを試すことになるものと思われます。

さて、OPEC総会での決定により、原油価格が順調に上昇した場合、何が起きるのでしょうか。景気面での懸念は、やはりインフレでしょう。原油価格は50ドル前後にまで上昇していますが、年初には30ドルを割り込む場面がありました。つまり、来年に入ると、WTI原油が現行水準で推移した場合でも、前年比での上昇率は5割に達することになります。米国では、WTI原油と消費者物価指数(CPI)はきわめて連動性が高いため、このような状況になれば、CPIは前年比で3%近くにまで達する計算になります。これは、米連邦準備制度理事会(FRB)が目標とするインフレ率を大きく上回ることになります。一方、米長期金利がこの水準を下回るようだと、いわゆる実質金利はマイナスになります。同様に日本のケースに置き換えると、円建て原油価格のCPIへの影響は約一年後に出てきます。つまり、CPIが0%を超えるのは来年1月以降になると考えられます。したがって、この時点で日本の実質金利は現在とほとんど変わらないことになります。現在の日米実質金利差から見たドル/円の理論値は107円台半ばですが、現在の実勢レートはそれより7円程度も割高の水準にあります。さらに、来年に入ると、日米実質金利差のマイナス幅が急拡大し、ドル/円の理論値が101円から102円程度にまで一気に低下することが計算上は想定されます。つまり、ドル/円は今後相当の円高に進むリスクがあることになります。現在の市場は、米長期金利の上昇だけを見ています。また、原油価格が上昇すれば、逆説的ではありますが、ドルは下落することになります。このように、現在のドル/円はかなり行き過ぎている可能性があります。トランプ次期米大統領が依然としてドルに対する明確なスタンスを示していません。しかし、ドル高に対する懸念を示すようだと、ドルは大幅な調整に見舞われるリスクがある点には注意が必要といえます。


20161202_emori_graph01.JPG

江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)

マネックスからのご留意事項

「特集1」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧