第35回 米国の原油生産量は簡単には増えない【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

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第35回 米国の原油生産量は簡単には増えない【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

米国株が堅調に推移しています。トランプ大統領が「今後2、3週間以内に驚くような税制改正を発表する」と表明したことで、いわゆる「トランプラリー」が再加速したわけです。市場のトランプ政権への期待はますます膨らんでいます。また、米国の経済指標は堅調そのものです。特に今週発表されたものはおしなべて堅調であり、1月の消費者物価指数は前年同期比でとうとう2.5%上昇となりました。原油価格の上昇が大きく影響しているわけですが、この傾向が続くようだと、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げペースを加速させるのかに注目が集まることになります。14日に行われたイエレンFRB議長の議会証言では、3月利上げの可能性が示唆されました。もちろん、最終的な金融政策の判断は雇用情勢とインフレ動向次第となるのでしょうが、トランプ政権の政策がまだ出そろっていない中で利上げだけ先行させるのは難しいものと思われます。そのため、3月の利上げは見送られる公算が大きいと考えられます。しかし、今後は後述するように、原油価格が堅調に推移する可能性があります。そうなれば、原油価格と連動性の高い米国のCPIは必然的に上昇することになります。結果的に、FRBは遅くとも6月には今年初めての利上げを実施することになるでしょう。

その原油価格ですが、徐々に需給が引き締まる可能性が高まっています。その直接的な要因が、石油輸出国機構(OPEC)による減産です。OPECは昨年11月30日に合意した減産を、今年1月から実施しています。OPECは1月の生産実績を公表しましたが、日量3,250万バレルの生産枠に対して、実際の産油量は同3,213万9,000バレルでした。サウジアラビアが大幅な減産を実施したことで、OPECの1月の減産履行率は93%に達したことになります。市場では、今回の減産合意の履行は困難とみていた向きが多かったため、市場では意外感をもって受け止められたようです。しかし、今回の減産合意は原油価格の引き上げを目的としています。産油国が自国だけ増産して利益を得ようとすれば、OPECの政策に対する信頼は大きく失墜し、原油価格は下落することになるでしょう。したがって、今回は自国の利益だけを優先させることはできません。減産合意は6月までとなっていますが、原油価格が安定的に高値圏を維持するまでは、延長される可能性もある模様です。いずれにしても、この減産に加え、世界の石油需要が前年比で日量140万バレル増加することで、世界の石油在庫は2割以上は減少することになり、原油価格は押し上げられるでしょう。

一方で、米国のシェールオイルの増産で原油価格は上がらないとする見方も根強いようです。しかし、現在の原油価格の水準では利益を出せる石油会社は多くありません。むしろ、60ドル程度の水準が長期的に続かないと厳しいのです。現状の水準で生産を増やすかどうか、自身が経営者になったつもりで考えればわかりやすいでしょう。つまり、石油需給が今後改善し、原油価格がある程度上昇し、その状況が一定期間続くまでは、米国内のシェールオイルの生産は増やせないわけです。このように考えると、原油価格は60ドルから65ドル程度までは少なくとも上昇するでしょう。そのうえで、石油需要が堅調であれば、需給調整がさらに進み、原油価格は年末に70ドルから75ドルまでの上昇を目指すでしょう。いまは突拍子もない水準に見えますが、このシナリオは十分にあり得ると考えています。

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江守 哲

エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)

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