第36回 米利上げによる押し目は買いの好機?【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

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第36回 米利上げによる押し目は買いの好機?【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

トランプ大統領の初めての施政方針演説が現地の2月28日夜に米議会上下両院合同本会議で行われました。トランプ氏は「法人税率を下げる歴史的な税制改革を進めている」と表明し、1兆ドル規模のインフラ投資法案への協力を議会に要請しました。さらに、「米国経済のエンジンを再起動する」として、政策の実行を約束しました。「企業寄り」とも言われる政策の柱となる減税を行うことで、米国企業の国外流出を防ぐ一方、米国民の雇用を創出する方針を明確にしたといえます。またトランプ大統領は法人減税の必要性を訴えました。このように、トランプ大統領が掲げる政策は、米国企業にとってきわめて支援的なものであり、これが企業業績の拡大につながることが期待されます。

今回のトランプ大統領の演説で、米国株式市場は上げ幅を拡大し、主要株価指数は過去最高値を更新しました。ダウ工業株30種平均は1987年以来の12連騰となるなど、米国株の上昇基調が鮮明になっています。トランプ氏の大統領就任以降、米国株の上昇ペースはきわめて速く、今後もこのペースが続くのかと考えると、少しリスクが出てきたようにも感じます。以前も解説したように、ロバート・シラー教授が算出するCAPEレシオでは、米国株の水準がすでに歴史的な割高圏にあることが示されています。したがって、米国株がさらに上値を試すには、これを肯定できるほどの企業業績の拡大が不可欠であることは言うまでもありません。ちなみに、トムソン・ロイターの調査によると、S&P500企業の今後4四半期(17年第1四半期~第4四半期)の予想PERは18.0倍となっています。増益期待は強いものの、株価の割高感を肯定するには、予想を超える一段の企業業績の改善が必要です。その意味でも、トランプ政権が掲げる政策の早い段階での実行が不可欠といえます。しかし、ムニューシン財務長官は、税制改革などの政策効果は「来年以降に本格化する」としています。米議会との調整などで景気刺激策の実施は遅れるとの懸念もあります。しかし、最終的にはトランプ政権の企業寄りの政策が景気拡大および企業業績の拡大につながり、株価の割高感は払しょくされると考えます。

一方、ここにきて米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレンFRB議長を含め、多くのFRB高官が3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げを検討すると発言しています。トランプ政権の具体策が示されない中、利上げ観測を強めるようなFRB高官の発言は、少し利上げを焦っているようにも見えます。雇用情勢の改善やインフレ懸念はあるものの、イエレン議長が以前に「景気の過熱を少し放置するほうがよい」と発言していたことを考慮すれば、最近のFRB高官の発言には違和感もあります。市場の利上げ確率は70%台と急速に上昇していますが、FRBが株価の過熱感を鎮静化させようと考えているのであれば、それはきわめて危険な行為と言えます。実際に利上げをすれば、株価は一時的に調整しそうです。これまでは株価の下落を懸念し、利上げを遅らせてきたイエレン議長が、そのスタンスを大きく転換させるのか、14・15日開催のFOMCでの政策決定に注目したいと思います。ただし、利上げに伴う株価の調整場面は、長期的には押し目買いの好機になると考えています。ちなみに、ダウ工業株30種平均の3月後半は下げやすい傾向があります。一方で、4月は上昇しやすい傾向がありますので、3月後半の押し目を狙いたいところです。

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江守 哲

エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)

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