マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
J-REIT価格は、軟調な展開が続いています。前回連載日(13日)から昨日(26日)までの東証REIT指数は、1,750ポイントを挟んで推移しています。
株式市場は、北朝鮮情勢を巡る地政学リスクが一時的に小休止状態となったことや、フランス大統領選挙の結果で為替が円安に転じたため反発しています。一方で東証REIT指数は、J-REIT価格にとってプラス材料とされる10年国債利回りが昨年12月以来となる0.05%を下回る水準で推移していますが、反発の兆しが見えていません。投資家の関心が為替変動により株式市場に向かっていますので、J-REIT価格の出遅れ感が意識されるまでは軟調な展開が続きそうです。
このようにJ-REIT価格が軟調な中で比較的堅調に推移している銘柄がインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(証券コード3298、以下IOJ)です。IOJは4月/10月決算銘柄であるため、権利落ち日に当たる26日には前日比2%を超える価格下落となりました。
しかしIOJを含めた4月/10月決算の10銘柄のうち8銘柄が26日に年初来最安値を付ける状況でしたが、IOJは年初来安値とはなりませんでした。またIOJの2017年4月の予想分配金は、後述しますが物件売却益が大きく寄与していますので、売却益が剥落する当期(2017年10月期)の取引が始まった中では堅調な価格推移と言えるでしょう。
IOJの価格が堅調に推移している要因は、4月21日にIOJの資産運用会社が運用ガイドラインを変更しIOJの自己投資口の取得及び消却に関する規定を追加したことにあると考えられます。自己投資口の取得及び消却は、2013年の投信法改正により可能となりましたが、まだ実施した銘柄はありません。
この最大の効果は、投資口消却を行うと投資口数が減少しますので、分配可能額が変動しない場合には1口当たり分配金が増えることです。IOJの価格は、1口当たり出資額を大幅に上回る状況ではないため、プレミアム増資効果による分配金増加が期待できない状況です。また、増資をおこなった場合に取得する物件は、不動産売買価格が高騰している現状ではポートフォリオの利回りを下回る低い利回りとなる可能性が高いため、分配金の増加には寄与しない可能性が高くなっています。つまりIOJの1口当たり分配金増加には、自己投資口の取得及び消却が最も効果が高いと考えられるのです。
ただし、自己投資口の取得及び消却という資本政策は、インサイダー取引懸念があるため実施する時期が難しいという側面があります。特にIOJの場合は、投資家に公表している業績予想はすでに前期となっている第6期(2017年4月期)までの数値です。前述の通り第6期の予想分配金は物件売却益が大きく寄与していますので、第7期(2017年10月期)は予想分配金が大幅に減少する可能性がある状態です。従って第7期の業績予想を公表するまでは、この資本政策を行うことが難しいと考えられます。
一方でIOJは、第5期(2016年10月期)の決算発表を行った2016年12月16日に「決算説明会資料」(※1)において、第6期の予想分配金のうち売却益や取得済物件の固定資産税や都市計画税が費用化されていない分の影響額を除外した1口当たり分配金水準を2,531円(※2)としています。従って、まだ公表していない第7期の予想分配金が2,531円に対して大幅に変動しない場合には、この資本政策を第7期業績予想公表前に行う可能性もあります。
実施時期の想定が難しいだけでなく、この資本政策を行っても1口当たり分配金を大幅に上昇させることは難しい点も投資家としては把握しておく必要があります。例えば第7期の予想分配金が2,531円になると仮定した場合、予想分配金を10%程度増加させるために必要な資金額は以下の通りとなります。
(1)第7期の分配可能額は2,064百万円(2,531円×815,547口※3)
(2)分配金を10%程度増加はさせ、第7期の分配可能額2,064百万円を超えない分配金額は2,783円となり、その場合の投資口数は741,433口
(2,783円×741,433口=2,064百万円)
(3)消却口数は74,114口(815,547口-741,433口)
(4)必要資金額は4月26日の価格98,700円を元にすると7,315百万円
(98,700円×74,114口)
このように70億円を超える資金が必要となりますが、IOJの第5期末の余剰資金は単純試算(※4)でも46億円程度しかありません。J-REITの場合は、株式会社とは異なり内部留保が実質的には行ないにくい仕組みになっているため、株式会社のように消却によって大きな効果を出すことが難しいと考えられます。消却という資本政策は、余剰資金が潤沢であり、有効な投資先が当面見つからないという場合にその効果を大きく発揮するものです。
IOJが今回公表した資本政策は、制度としては存在しているにもかかわらず、採用されていない投資家への利益還元策を打ち出したという点で評価できるものです。ただし、どのような規模(金額)で実施するという点が明示されなかった点や、実際に分配金の増加という面の効果は限定的ということを投資家としては留意しておく必要がありそうです。
※1:「インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(3298)平成28年10月期(第5期)決算説明会資料」
※2:上記※1資料P12に記載
※3:発行済投資口数
※4:第5期の「現預金-(敷金+当期純利益)」で算出
コラム執筆:アイビー総研株式会社 関 大介
<本内容は、筆者の見解でありアイビー総研株式会社及びJAPAN-REIT.COMを代表したものではありません。個別銘柄に関する記載がある場合は、その銘柄の情報提供を目的としており、お取引の推奨及び勧誘を行うものではありません。また執筆時点の情報を基に記載しております。>
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