第45回 「FOMC議事要旨の内容を精査する」【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

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第45回 「FOMC議事要旨の内容を精査する」【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

今回も金利動向についてです。欧米の金融当局者の発言がタカ派であることで、金利上昇が続いています。しかし、これらの発言を精査すると、そこまでタカ派ではないことに気づきます。市場はかなり先走っているように感じます。一方、5日に発表された、6月13・14日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨には驚きました。前回のFOMCでは、金融危機を受けた量的金融緩和策で買い入れた米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を減額する具体的な方法を議論されましたが、議事要旨では資産圧縮を始める時期について「2、3カ月以内」と「年内遅く」とで意見が分かれていました。2人の参加者は、「早い時期の資産再投資策の変更は、FRBの緩やかな正常化方針からペースを速めると誤解される」としました。イエレン議長はFOMC後の記者会見で、資産圧縮の時期は「比較的早期」としていましたが、かなり印象と異なる内容でした。また複数の参加者は、「資産圧縮が今後の政策金利の引き上げペースは緩やかになると判断する根拠になる」としています。一方で、複数の参加者は「資産圧縮が利上げの判断に大きな影響を及ぼさない」としています。

これだけ異なる見方が示されています。FOMC直後の声明やその後のFRB関係者の発言とそれらに対する市場の反応は、金利上昇に傾き過ぎている印象があります。6月のFOMCでは利上げを決定しましたが、FOMC参加者は「景気は緩やかに拡大しており、緩やかに金融を引き締めていくことは適切」との見方でおおむね一致しています。しかし、物価上昇率がFRBの目標である2%に向かうペースの減速に懸念を示しています。その一方で、複数の参加者は、堅調な労働市場を踏まえ、物価は持ち直していくと指摘し、上振れリスクに対する警戒に言及しています。インフレ動向に関しても、これだけ異なる意見が示されているわけで、FRBは全く一枚岩ではないわけです。事実、市場での9月の利上げ確率は一向に上昇しておらず、利上げはほぼ不可能な状況です。こうなると、市場は資産圧縮を先に始めるとの観測に傾くことになります。しかし、そのような単純な話ではないように思います。

一方でソフトデータが改善してきました。6月の消費者信頼感指数は118.9と、5月の117.6から改善し、6月のISM製造業景況感指数も57.8と、5月の54.9から上昇しました。最近の落ち込みを取り返しつつあります。もっとも、ハードデータは芳しくありません。5月の個人消費支出(PCE)物価指数は1.4%上昇と、4月の1.7%から低下しました。また、6月の新車販売台数は前年同月比3%減でした。このように、インフレ率が高まらない中で利上げの可能性を示唆しても、市場はさすがに織り込むことはできません。現状を冷静に考えれば、利上げは早くても12月、資産圧縮は年明けからになるのではないでしょうか。これらのスケジュールが前倒しになるには、景気指標(特にハードデータ)の回復、インフレ率の上昇、株高が必要です。FRBの政策の根幹は、市場を壊さない程度に利上げを行うことにあります。一方で金融政策の正常化も進めなければならず、きわめて難しい作業を強いられています。特に金利上昇で株価が下落すれば、米国景気を直撃します。FRBは、いまは利上げや資産圧縮を急がないほうが賢明でしょう。FRBは昨年9月も利上げを市場に織り込ませようとして、失敗しています。これを前提に投資戦略を組むのが現実的でしょう。そして、ハイテク株を中心に、米国株に対して強気な見方を変える必要はないと考えています。

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江守 哲

エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)

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