第48回 イベントへの市場の反応は低下傾向【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

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第48回 イベントへの市場の反応は低下傾向【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

今年の夏場は市場の膠着状態が続きました。8月の市場動向を振り返ると、北朝鮮情勢への懸念やトランプ米政権の不透明感、さらに米国の政府機関の閉鎖や債務不履行の可能性への懸念もあり、株価も上値を抑えられた印象です。トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の発言は、全くかみ合っておらず、再び米朝間の緊張が高まる恐れもあります。一方、トランプ大統領が税制改革について、現行35%の法人税率を15%に引き下げるとしていますが、最終的に法律を決めるのは議会が20~25%でまとめることを目指しています。さらに、米テキサス州を直撃した大型ハリケーン「ハービー」の米国経済への影響も懸念されます。経済への影響が大きくなれば、株式市場の懸念が強まる可能性があります。

もっとも、現状の米国景気はきわめて良好です。コンファレンス・ボード発表の8月の消費者信頼感指数は122.9と前月の120.0から上昇しました。4~6月期の実質GDP改定値は前期比3.0%増と、個人消費の堅調さを背景に速報値の2.6%増から上方修正されました。また、8月の全米雇用報告では、非農業部門の民間就業者数が前月比23万7,000人増と、市場予想の18万3,000人増を大きく上回りました。個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比1.4%上昇でした。インフレは抑制されており、利上げ観測の後退が株価を支えるものと思われます。米国景気の拡大局面はすでに96ヶ月に達しましたが、ハイテクバブル期には120ヶ月の景気拡大がありました。同じパターンになれば、今回は2019年中ごろまで続くことになりますが、その可能性は十分にあると思います。

今回の景気拡大局面では、ハイテク株が牽引しています。この展開は今後も続くでしょう。ウォーレン・バフェット氏は、保有するアップル株をこれまでに売却していないことを明らかにしました。バフェット氏は「IBMと比べ、アップルの将来がより確かなものと感じている」としています。これは心強い援軍と言えるでしょう。ちなみに、バフェット氏が率いるバークシャーは、これまでに約200億ドル相当のアップル株の保有を明らかにしています。一方で、トランプ政権に対しては、「大統領が誰であれ、大統領たたきは私の仕事ではない」とし、「政府・民間の立場から国家を最大限に前進させるための努力をすべき」としています。米国の政治の不安定さは懸念材料ですが、経済や企業業績に悪影響がなければ、トランプ政権の不透明感を過度に懸念する必要はありません。いまは原油安でインフレ懸念もなく、金利も低水準です。またドル安基調も続いており、米国の多国籍企業にとっては最高の環境にあります。9月は引き続き軟調に推移しやすい傾向があり、材料次第では株価の変動の度合いを示すVIXの急伸も懸念されるでしょう。しかし、最近の市場は悪材料への反応は鈍くなっており、株価を押し下げるイベントが発生しても、VIXの上昇は限定的になっています。その意味では、何らかのイベントで押し目があったとしても、その幅は小さくなるかもしれません。ハイテクバブルの際には、VIXはイベント発生時よりも、むしろ株価の上昇局面で上昇していた経緯があります。そのように考えると、一般的に考えられているほど、市場にはリスクは存在していないのかもしれません。8月31日の市場では、ナスダック総合指数が久しぶりに過去最高値を更新しました。ハイテク株を中心とした年末までの上昇局面に備え、買い場を逃さないようにしたいところです。
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江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)

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