第127回「ETFと官製市場について」 ETF解体新書

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第127回「ETFと官製市場について」 ETF解体新書

こんにちは。晋陽FPオフィス代表のカン・チュンドです。日本銀行が金融緩和策の一環として国内ETFを買い続けています。ETFの買い入れ枠が6兆円に引き上げられて、すでに1年以上が経ちました。ETFの純資産残高は2017年2月末時点でおよそ22兆円ですが、そのうち日銀のETF 保有額は12兆円を超え、総資産額の5割以上を占めるに至っています。日銀がこのままETFの購入を続ければ、ETF市場の自律機能が損なわれる可能性があります。また、日銀は日本株ETFのみを購入しているため、ETF市場に占める「日本株式」の比率がますます上昇しています。日銀は主にTOPIX連動型のETFを購入していると言われますが、たとえば、野村アセットマネジメントが運用するTOPIX ETF(1306)は、純資産額が5兆4,000億円に達しています(9月7日現在)。日銀の買い入れによって、ETF市場の規模が不自然にかさ上げされているのです。

また、東京証券取引所の時価総額に占める日銀の株式保有率も上昇しています。これは結果として、公的部門による株価維持政策と変わらぬ状況であることを指します(1992年に政府が公的資金を活用して株価を下支えした、PKO(プライス・キーピング・オペレーション)を想起させます)。そして、日銀の断続的なETF購入により、株式市場のボラティリティが低下しているのも問題でしょう。

そもそも、国内ETFの創設自体も、国が主導していた側面がないわけではありません。2001年にスタートした国内ETF市場ですが、当時、不良債権処理が最終段階を迎えていました。銀行などの株式持ち合い解消も本格化する中、持ち合い株が市場で大量に売却されると、株価は大幅に下落する恐れがあり、その株式の受け皿としてETFが活用された側面があります。

日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)を構成する株式をまとめてバスケットで拠出し、ETFを組成することで、最終的には流通市場で消化させようとしました。このような官製市場とETFの関わりは、歴史を遡れば実は「香港」にもあります。1997年にアジア通貨危機が発生し、香港市場は暴落します(投機筋による猛烈な「空売り」に遭ったのです)。香港当局はマーケットに介入し、結果としてハンセン指数全体の時価総額の約7%もの「株式」を保有するに至ったのです。この株式の出口戦略として浮上したのがETFでした。香港当局は保有する大量の株式をステート・ストリートに拠出し、同社は大量の受益証券(トラッカー・ファンド・オブ・ホンコンというETF)を香港当局に交付しました。そして99年、ハンセン指数との連動を目指す「トラッカー・ファンド・オブ・ホンコン」(02800)が、香港市場に上場します。その結果、香港当局は時間をかけて流通市場でETFを売却することができたのです(同ETFは現在でも、規模、流動性ともに香港を代表するETFとなっています)。

このように、官製市場とETFは深い関わりを持ちます。日銀がETFを購入することで、ETF市場がその発展の足がかりを得ている面もあるでしょう。ただ、多様な投資家の選別によって、真にマーケットニーズがあるETF市場が育つためには、早く官製市場の楔から解き放たれる必要があるのではないでしょうか。

コラム執筆:カン・チュンド

晋陽FPオフィス代表
2000年にFP事務所を開業以来、資産運用に特化したセミナー、コンサルティング業務を手がける。

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