第52回 イールドスプレッドは余裕十分【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

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第52回 イールドスプレッドは余裕十分【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

世界経済が回復基調を強める中、米国株は世界の株高をけん引し、連日のように過去最高値を更新しています。夏場から秋口には、それまで堅調に推移していた株式市場に大幅な調整が入るといった見方は少なくありませんでした。また、米国株の割高感を指摘する声も多く聞かれました。しかし、実際には米国株の上昇は続いています。企業業績も好調さを維持しており、株高を肯定するのに十分な状況にあるといえます。ダウ平均は今年に入って大台を次々と突破しています。1月25日に2万ドル、3月1日に2万1,000ドル、8月2日には2万2,000ドルをそれぞれ突破しました。そして、その後わずか2カ月半でさらに1,000ドル超上昇し、2万3,000ドルを超えるに至りました。確かに上昇ペースは速いですが、企業業績の拡大基調もあり、株価の方向性は正しいと考えています。

市場では徐々に金利が上昇しています。現在の米金利の上昇の背景には、米連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長人事が影響しているようです。特に最近は、トランプ大統領が、タカ派色が濃いとされるスタンフォード大学のジョン・テイラー教授と面談し、好印象を得たと報じられています。テイラー氏は、「テイラー・ルール」の発案者ですが、これはインフレや国内総生産(GDP)などの経済変数に従って望ましいとされる金利水準を導き出し、それを政策金利の決定に生かそうという考え方です。テイラー・ルールはFRBの実際の行動をもとに導き出した理論ですが、現在のFRB関係者が政策決定を行う際に、このルールに縛られているわけではありません。しかし、一般的には一定の影響を与えていると言われています。テイラー・ルールに基づいて適正な金利水準を計算すると、相当の利上げが必要とみられています。そのため、テイラー氏がFRB議長になれば、このルールを用いることで、金利が引き上げられやすいとの憶測が金利上昇を誘っているようです。しかし、今の時点で誰が議長になるかを推測しても仕方がありません。実際に議長になる方はひとりですし、議長が決まってからその方の過去の言動や方針を確認すれば十分です。また、FRB議長といえども、金融政策の決定における影響は他の委員と同じです。あまり次期FRB議長に関する報道に振り回されないようにしたいところです。

さて、米国株の連騰はいつまで続くでしょうか。それは誰にもわかりません。ただし、どのような状況になればピークを付けるかは、過去にヒントがあります。それが、「米国債の長短金利差の縮小」です。これは以前にも本欄で解説しています。常時は相対的に金利が低い2年債利回りが、金利が高い10年債利回りを下回っています。景気回復基調が強まると短期資金のニーズが増えることで、短期金利が長期金利よりも早いペースで上昇します。こうなると、企業の資金調達コストが上昇しますし、個人のローンなどにも影響が出ますので、景気も抑制され始めます。それらが株価の動きに反映され始めます。そして、最終的には長短金利差(イールドカーブ)がフラットになったところで、おおむね株価がピークを付けることになります。これは、ハイテクバブルやサブプライムローン問題の時にもみられた現象です。米国株は今後も上下動するでしょう。しかし、本当のピークはスプレッドのフラット化の状況が見られたときです。いまは2年債と10年債の利回りスプレッドはマイナス0.78%です。スプレッドがゼロに近づくペースが速まったときには要注意ですが、いまのところまだ十分に余裕があります。その意味では、米国株のピークはまだ相当先にあるといえそうです。

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江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)

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