第3回 金価格が本格下落に転じる時 【特集】「豊島逸夫の金道場」

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第3回 金価格が本格下落に転じる時 【特集】「豊島逸夫の金道場」

金価格の下げシナリオ。
この問題を論じるには、ここまで何故金価格が高騰したか、理由を吟味する必要がある。そこで金価格上昇の7つの要因を纏めてみた。

【1】欧州債務危機―ソブリンリスクのヘッジとして破たんリスクゼロの実物資産=金が買われる。

【2】通貨不安―米ドルのみならずユーロへの不信感も強まる中で通貨ヘッジとして無国籍通貨=金が買われる。

【3】新興国の経済成長―利上げで減速傾向とはいえ、金の年間生産量の6割以上をインド・中国が買い占める。

【4】公的部門金売却から購入へトレンド転換―1990年代には年間500トン以上の規模で主要欧州中央銀行が金売却、ドルシフトに走った。それが今年はBRICsなど新興国の中央銀行が500トン近くの金を外貨準備として購入している。

【5】金生産の頭打ち―この10年間で金価格がドル建てで6.5倍、円建てで4倍に急騰したにも関わらず、世界の金生産量は2500トン台から2800トン台へ1割程度増加したに過ぎない。同期間に生産コストが3倍近く上昇したので採算に乗る鉱脈はほぼ掘り尽くされたためだ。

【6】有事の金―直近でも在米サウジ大使暗殺未遂事件にイラン軍部関与が疑われるなど中東関連の地政学的要因が有事の金買いを誘発している。

【7】負の実質金利―日本以外の世界各国では実質金利が大幅にマイナスとなりマネーがモノに流れやすいマクロ経済環境が続いている。新興国も利上げに動くが、景気への配慮から金融引き締めは後手後手に廻りがちだ。

以上7つの上昇要因を踏まえたうえで下げのシナリオを考えてみよう。

【1】ゴールディロックスの到来―欧米経済が構造的且つ持続的に回復すればヘッジ資産としての金の出番は減る。景気が過熱するインフレリスクも冷え込み過ぎるデフレリスク(=信用リスク)も薄まる状況、即ちゴールディロックス(適温経済)が実現すれば金価格は下がるだろう。各国金融当局も早めにインフレ防止のための引き締めに動きやすい経済環境となり、物価上昇を上回る利上げに踏み切り、実質金利はプラスに転じる。

【2】中国のバブル破たん―中国経済成長が現在の9 %台から7%を割り込むような水準まで急激に減速するとハードランディングとなり、けん引役中国の金買いも減少しよう。

【3】中東が平和になる―地政学的要因が後退すれば有事の金買いは終息する。
【4】リサイクルが急増する―金は腐食せず地球上に残るので高値圏ではリサイクルとして市場に還流する。これは売り要因として金上昇にブレーキをかける。

以上を総合すると、FRBが2013年半ばまでゼロ金利維持を明言しているのであと2年は金価格も高値圏を維持しそうと考えるのも一案。その後に欧米経済が本格回復すれば金価格の下落局面となろう。

コラム執筆:
豊島逸夫(としま・いつお) 
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。2011年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに 金の第一人者として素人にも分かりやすく 独立系の立場からポジショントーク無しで 金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。

ブログは「豊島逸夫の手帖」

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