第6回「市況の法則」が通じない2012年の金価格 【豊島逸夫の金道場】

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第6回「市況の法則」が通じない2012年の金価格 【豊島逸夫の金道場】

最近、金の世界では、ベテランほど予測を外す。それは、経験則に縛られがちだからだ。筆者も自戒を込めて、頭の中のハードディスクの過去情報は毎朝「消去」してから、当日の相場に臨むべく自ら習慣づけている。
「業界の常識」が当てはまらない例を以下に列挙してみよう。

【1】ドル高でもNY金が上がる。ドル安でも下がる。

昨年までは「ドル安で、ドルの代替通貨として金が買われる」と言われたが、今年はドル高に振れる局面が多い。問題は、その際、金が売られることもあるが買われることもあるのだ。その理由は、ドル高といってもユーロ安の裏返しみたいな現象で、「ユーロよりはマシ」という相対評価で買われているに過ぎないこと。結局、ドル高でもドル不安は変わらず。ユーロも不安、そして円安傾向という流れの中で、無国籍通貨=金が消去法的に浮上している。

【2】欧州債務危機が悪化すると、金が売られる。

従来、金は経済危機が勃発すると「安全資産」として買われたが、最近は、株式同様に「リスク資産」として売られる局面が増えている。これは、ヘッジファンドなどが決算対策として金の益出し売りに走ること。そして、信用収縮が加速すると、「金よりキャッシュ」という流れで、金の換金売りが増えることなどが理由である。

【3】有事の金は売り。

イラン、北朝鮮情勢が緊張しても、もはや「有事の金」が買われることはない。そもそも、金は「平時」に買っておき、「有事」に売って凌ぐのが本筋だ。有事になってから買っても遅すぎる。プロは有事を利益確定売りの絶好の機会と捉える。そこで個人が踊らされて買いに入れば、それこそ飛んで火に入るなんとやら、である。

【4】金と原油が連動しない。

金は商品(コモディティー)と通貨(カレンシー)の二面性を持つが、原油はあくまで商品である。そこで、通貨不安になると金は買われるが、原油は景況感悪化が嫌気され売られることが多い。金は近年、外貨準備として大量に買われているが、原油が外貨準備で買われることはない。
なお、原油高は庶民の生活を直撃するが、金は元々役立たないので、価格が上がって困る人も少ない。それ故に、原油や穀物の価格高騰は政治問題化しやすく、商品先物取引規制の対象になりやすいが、金には規制がかかりにくい。そこで、機関投資家の間では、コモディティーへのアロケーションでオーバーウエイトの原油を減らし、アンダーウエイトの金を増やす動きが見られる。

以上、「市況の法則」が当てはまらない例を見てきたが、結局、市場はポジションで動くので、買いたいときには今更のように「ドル安で買い」を唱えるが、売りたいときには、ドル安も軽く無視するものだ。欧州債務危機とて、その時のポジション次第で、買い材料にもされるし売り材料にもされる。

コラム執筆:

豊島逸夫(としま・いつお)

豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。2011年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに 金の第一人者として素人にも分かりやすく 独立系の立場からポジショントーク無しで 金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。

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