第7回 米雇用統計と欧州選挙に揺れる金価格 【豊島逸夫の金道場】

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第7回 米雇用統計と欧州選挙に揺れる金価格 【豊島逸夫の金道場】

金市場には短期的に売り材料が目立つ。
仏・ギリシャ総選挙結果により、欧州債務問題は再び「不安定期」に入った。金市場への影響は、長期的にはリスクオフの中で「安全性への逃避」マネーが流入することが買い材料となる。しかし、短期的には、リスク回避が加速すると金も巻き込まれて「リスク資産」として売られるケースも頻発している。但し、この「流動性確保」目的の売りは一過性である。

そして、もうひとつの弱材料が中国とインド。
民間部門では、経済減速の影響で、中国の下値サポート買いが湿りがち。世界一の金需要大国インドは、金が主要輸入品なのだが、経常収支赤字圧縮のために、金の輸入関税を2%から4%に引き上げる方策を発表した。インド国内の金業界は一斉に抗議のストライキに入り、政府側も妥協の姿勢を見せたため当面は終結したが、まだ情勢は不透明。
テクニカルにも相場の頭が1,900、1,800、1,700 そして1,650と徐々に切り下がってきている。良いカタチとは言えない。

但し、強材料として、新興国中央銀行による外貨準備としての大量金買いが特に1,600ドル水準では効いている。
これは経済減速などには関係なく、中央銀行が、外貨準備の中で不安要因を抱えるドルやユーロから金や円などに乗り換える動きである。

この3月にはメキシコ、ロシア、トルコ、カザフスタンなどが40トン以上の金を買った。ちょうどこの頃、金価格が1,620ドルまで急落した時期で、この買いが1,600ドル割れを食い止める結果となったのだ。
そして、米国雇用統計悪化。
金市場にはQE3のトークが何よりの薬。
その薬が一時は消えかかったのだが、ここにきて再び議論の対象として浮上してきた。実現へのハードルは高いが、金市場には、トークだけで十分にインパクトがあると思われる。

加えて、欧州発の景気後退も顕在化してきた。ECBも追加的金融緩和措置を採らざるを得まい。

2012年後半の米国QE3と欧州版QE1競演シナリオが現実味を帯びてくると、これは金価格にとって強い追い風となろう。

5月は金価格の短期的乱高下の局面が多くなりそうだが、6月以降は再び上昇軌道に乗りそうである。なお、金価格がプラチナより高い逆ザヤ現象が続いている。値差が100ドル近くにまで拡大した。

自動車排気ガス清浄化触媒需要を主とする産業用素材のプラチナは特に欧州発リセッション、そして中国経済減速の影響をモロに受ける。更に、金と異なり外貨準備として買われることもない。コモディティー(商品)と通貨(カレンシー)の二面性を持つ金との差が顕著である。

コラム執筆:

豊島逸夫(としま・いつお)

豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。2011年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに 金の第一人者として素人にも分かりやすく 独立系の立場からポジショントーク無しで 金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。

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