マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
5月14日(月)に豪ドルがパリティを割り込みました。為替市場に於いてパリティとは等価という意味で、1米ドル=1豪ドルを割り込んだということです。また、円に対しても豪ドルは売られており、2012年3月には88円台にあった豪ドル/円は現在79円台にあります。米ドルに対しても、円に対しても豪ドルが売られています。つい先日まで「高金利通貨」だとして個人投資家に間では大人気だったのですが、何故下落が続いているのでしょうか。
先進国通貨が低金利政策で利を生まない状況にある中、高金利通貨として人気を集めてきた豪ドルですが、5月1日RBA(豪準備銀行)が予想を上回る0.50%の利下げを実施したことで、政策金利は4.25%から3.75%へ引き下げられました。さらにギラード首相が「非常に高い豪ドルが製造業に圧力を与えている」と豪ドル高を牽制したとも受け取れる発言を行なっています。つまり、豪ドル高を是正しようという動きがオーストラリア当局から出ているということ。これはとても大きな材料です。中央銀行には逆らうな、という格言があるほど(正確にはFRBですが)中央銀行のスタンスは市場の方向を司って行くものです。
また豪州は鉄鉱石の上に国があると呼ばれる程に資源が豊富で、資源価格の上昇とその資源の買い手である中国が成長し続けたことに伴って豪州の経済は良好に推移してきたことが豪ドルを支えてきました。しかし、その資源価格、そして中国の成長はどうでしょう。
先週末に中国人民銀行は市中銀行から強制的に預かる資金の比率を示す預金準備率を5月18日から0.5%引き下げると発表しました。簡単に言ってしまうと追加金融緩和で景気を下支えしようというものです。
先週、中国から発表された貿易統計や小売売上高、鉱工業生産などの一連の経済指標は中国経済の冷え込みを示す悪いものばかりでした。予測を下回る経済データは需要が著しく低下していることを反映したもの。預金準備率の引き下げは2011年12月・2012年2月に続いて今回3度目となりますが、5月14日に上海株は下落して終了、豪ドルも下落が止まることはありませんでした。今回の政策緩和では不十分で中国はすぐにでも財政出動を加速させなければ経済成長率目標を達成出来ないとの指摘も出ています。中国からの資源の買いが鈍ればオーストラリア経済の先行きが明るいはずがありません。2月の豪貿易収支は11億豪ドルの黒字予想だったのが4億8000万豪ドルの赤字、3月は15億8700万豪ドルの赤字で市場予想を上回る赤字額へと拡大しています。
そして、CRB指数(コモディティ商品指数)のチャートを御覧ください。ギリシャのユーロ離脱を巡る問題から欧州リスクが再燃、外部環境の悪化からGWを挟んで株価も上値重くなってきましたが、どの市場よりも早く調整色を強めていたのが商品市場です。3月には下落を開始していました。流動性の低い市場から先に資金は逃げ出します。商品市場は為替や証券市場と比較すると小さなマーケットなので値動きが早い。2011年もQE2が終了する前の5月にCRB指数は下落を開始しており、2ヶ月程遅れて株価も大きな調整局面を迎えています。この指数が弱いということは世界の景気が好調だとは決して言えないのです。CRB指数のチャートと豪ドル/ドルのチャート、形が似ていませんか?!金や原油の値動きと豪ドルは相関性が高いので、豪ドル投資を考えるなら、こうしたコモディティ価格がこの先上昇に転じる可能性があるのか否かにも注目しなければなりません。
豪ドルは、パリティという節目を割り込んだことで、一度大きな反発が見られるかもしれません。しかし、個人的にはパリティを挟んで神経質な攻防が繰り広げられた後、豪ドルは再度売られるのではないかと思っています。豪ドル/ドルの週足、もしくは月足のチャートを見ると、パリティを超えて豪ドルが米ドルを上回るほど買われたのは、リーマンショック以降の過剰流動性相場以降。景気を支える為に供給されたジャブジャブのお金が高金利通貨に集まっていたということですね。しかし、実際にはほとんどの期間パリティより下に位置している通貨なのです。世界の景気が持ち直すなら話は別ですが、ギリシャを始めとする欧州問題、中国の失速など諸々の材料を鑑みれば、豪ドルの下落は始まったばかり。水準訂正はまだまだ続くのではないかと見ています。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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