マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
ドル/円相場が再び1ドル80円を割り込み「円高」が進行しています。2007年の1ドル124円から長らく続いていた円高トレンドが終焉したかに思えた2月14日の日銀の追加緩和後からの急激な円安も、半値以上値を削ってしまいました。ギリシャのユーロ離脱などの金融リスクが存在すると「リスク回避で円高」という解説がなされますが、この解説は間違ってはいないのですが理解し難い表現。何故政治も経済も弱体化し国債暴落シナリオが囁かれる日本の円が買われるのでしょう。
金利差(中央銀行の政策スタンス)、貿易収支、政治、需給などなど数えきれない程の様々な要因が為替の値動きに影響しています。どれをとっても重要なファクターですが、どれか一つだけを見ていても正確ではないように感じます。その中で今回は財務省が5月22日に発表した「対外貸借報告書」から「日本の対外純資産253兆円」が示す潜在的円高リスクを取り上げてみましょう。
2011年末時点で、日本の政府や企業、個人が海外に持っている対外資産から、海外の政府や企業、個人が日本に持つ対外負債を差し引いた「対外純資産」の残高が253兆100億円ありました。この数字は過去2番目に高い水準で、2009年以来2年ぶりに増加、前年比で0.6%増加しています。統計を公表している主要国の中で日本は21年連続で世界最大の対外純資産を持つ債権国であることが確認された、というニュースですが、これが何故円高リスクなのでしょうか。
現在、リスク回避でドルと円が買われています。何故リスクを回避する時に、世界最大の経常赤字国であり対外債務国である米国ドルと世界最大の借金大国日本の円が買われるのか不思議ですけれど、背景のひとつに両国とも長期に低金利政策を実施してきたことが挙げられます。基本的には金利が低いのですから米国と日本には資金が集まりません。金利が高い国や通貨を買っていたほうが特ですものね。
これまでリスクオン時には(積極的にリスクを取って投資活動が行われていた時)ドルや円を売って(キャリーして)オーストラリアやニュージーランドなどの高金利通貨、あるいは新興国の資産や米株などのリスク資産が買われてきました。これがギリシャ問題などのリスク時には値下がりを恐れてリスク資産が手仕舞われる動きが加速します。コモディティやオーストラリアドルなどが大きく売られたのはまさにこうしたリスク回避の動き。これは同時にこれまで売られてきた(キャリーされてきた)米ドルや日本円が買い戻されるフローなのです。円を借りてオーストラリアドルを買っていたのですからオーストラリアドルを売って円を返さなくてはなりません。つまりこれが円を買う動きに繋がるのです。
そしてこの低金利で国内投資に妙味がなく、日本から海外資産に投資された対外純資産残高は231兆円。これが何か起こった時にすべて処分されて日本に返ってきたら...?!
昨年2011年3月11日に発生した東日本大震災の際、震災や津波で大打撃を受けたにもかかわらず円が急騰し、1ドル76円台にまで円高が進行しました。企業や投資家は緊急時の資金確保として海外へと投資した保有資産を売却して現金化しました。これが国内に戻ってくる過程で外貨売り・円買いの動きが生じるため、円高が進んだのです。欧州の危機時だけではないのです。日本に何か大きな問題が起こっても、それは円売りに繋がるのではなく、円買に繋がってしまうのです。この潜在的円高リスクが対外純資産世界一、231兆円分存在するということになります。
現在、日本は欧州にも多額の債権を保有しています。だいぶ通貨は下落してしまっていますが、オーストラリアやブラジルの債権も同様に保有しています。海外に多くの資産があればあるほど、リスク回避時にはそれが日本に還流するリスクがあるため、円高圧力が強いということ。勿論これだけの理由でまだまだ円高が進むというわけではありませんが、構造的な問題としてリスク時には円高が進みやすいことを覚えておきましょう。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
TwitterAccount
@hirokoFR
マネックスからのご留意事項
「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。
商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。