マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
ギリシャからスペインへと懸念が波及している欧州、ユーロの下落が一体何処で止まるのかを予測するのは大変困難ですが、そろそろ下げ止まるのではないか、として注目されている指標が「IMM通貨先物ポジション」です。最新のデータ(2012年6月5日時点)のユーロ・ドル先物取引非商業部門のユーロポジションは、買いポジションが3万6651枚、売りポジションが25万1069枚で、売り越し幅が21万4418枚となり、前週の売り越し幅である20万3415枚から拡大しました。4週前にユーロ導入以来最大の売り越しとなったことからそろそろ反転するのではないか、と注目されているのですが一向に縮小に転じる気配なくユーロの売りポジションはジワジワと積み上がっています。
外国為替相場は通貨の需給だけではなく、各国の経済状況や政治動向、金融政策などにも大きく左右されやすく、また流動性も大きくプレーヤーも多岐に渡ることから、ひとつの変動要因で動くものではないのですが、時として相場を大きくリードして動かすのが投機筋のポジション。CME(シカゴ先物市場)で取引されている通貨先物のポジションはIMMポジションとも呼ばれ、ヘッジファンドやCTA(商品投資顧問業者)などの投機筋(短期筋)の動向を読む上で注目されています。
※但し、IMMポジションは毎週金曜日の取引終了後にその週火曜日時点の数値が発表される為、情報の遅れを考慮して使用する必要があります。
過去の出来事を遡ってみると、2012年2月14日の日銀の追加の金融緩和策の発表を受け、ドル/円相場が6円あまり円安進行となった値動きの背景に彼ら投機筋の円売りがあったと考えられています。2月14日の週にはIMMの円売りポジションは3万4000枚程度だったのに対し、円買いポジションは6万4000枚と2倍近くもあり、円の買い越しとなっていました。これが発表の翌週からどんどん買いポジションが縮小していき、売りポジションが拡大。これは先物市場で円を買っていたものを手仕舞い、逆に売りポジションを構築していった、という動きです。こうした値動きに歩調を合わせてドル/円相場は円安が進行していったのですが、それも4月10日の週をピークに再び円売りポジションが減少に転じており、とうとう先週末発表された6月5日の週には円の買い越しに転じました。この過程ではドル/円相場は再び円高に転じています。
2月14日の日銀の追加緩和に反応できなかった日本勢(日本時間に発表されたにもかかわらず、ドル/円相場は発表直後ほとんど動かなかった)に対し、海外勢が日銀のスタンスに素直に円売りを仕掛けてきたことを考えると、この相場において海外勢短期筋の動向が読めるIMMポジションが今後のドル/円相場を動かす大きなファクターとなることが予測できましたし、結果日銀の追加緩和だけでは円安が継続出来なかったことも、IMMポジション動向の変化からトレンドが変わったことを察知することが可能だったと思います。勿論、投機筋だけが為替市場を動かしているわけではないのですが、この相場は投機筋が先導して円安が進行したと考えられます。投機筋の動向がマーケット全体の縮図とみる向きもあることから、投機筋が先導した相場だった場合、IMMのポジションが今後の値動きの推察に大いに役に立つと考えてもいいと思います。
そして今、ユーロの売り越し幅が史上最大に積み上がっているというポジションの偏りは何を意味しているのでしょうか。教科書的にはポジションの偏りが一方向に大きく膨らむとそのポジションを手仕舞う過程で、つまり、ユーロが買い戻される過程でユーロが大きく上昇してしまうリスクがある、ということになります。
しかし、注意しなければならないのは、ユーロの売り越し幅が史上最大だからもう終わりだ、反転する、という考え方には全く根拠がありません。ギリシャがユーロを離脱するかもしれないという現在の欧州が抱えるリスクはユーロ発足から前例のない歴史的な事態。常識的な判断が通用する相場ではないのではないかと思います。来週も、その次の週もユーロの売りポジションが積み上がり史上最大を更新し続けるかもしれません。また大口のヘッジファンドなどは、手口が公開されることを避けるため、IMM通貨先物を利用しないケースも増えているとか。逆にIMMでは売りポジションを積み上げておきながらオプションなど別の取引で細かくヘッジ(ユーロ買い)しているという話もありますので、必ずしも投機筋の動向が正確に反映されている訳ではないという話も...。
IMM指標から彼らの動向を参考にするならユーロの売りポジションが減少に転じたことを確認してからでも遅くありません。個人的には2週連続で売りポジションが減少したのを確認できれば大きな巻き返しに入ったと見てもいいと思って注視しているのですが、ポイントになるのはやはり6月17日のギリシャ再選挙ではないでしょうか。オプション市場では6月17日以降ユーロ買いとなっているそうで選挙を機に巻き戻しがあると見ている投機筋もあるようです。しかし、ギリシャの再選挙後もユーロの売りポジションが減少しないようなら、更にユーロ売りポジションが積み上がる相場へと発展していくことも考えられます。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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