第9回 金投資 今からでも 遅くないですか? 【豊島逸夫の金道場】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第9回 金投資 今からでも 遅くないですか? 【豊島逸夫の金道場】


今回はセミナーで頻繁に出る質問を紹介したいと思います。

【Q1】 ずばり、金は今、投資対象として魅力はあるのでしょうか?

【A1】 今日買って、一年後に売れば、儲かるか、という意味であれば、我々プロでも「分かりません」。私自身、スイス銀行で、外為貴金属トレーダーとして毎日投機的売買に従事していたころがありました。市場では「チューリッヒの子鬼」などと言われたものです。12年間の勤務で3000回は相場を張りましたが、結果はざっくり1600勝1400敗。平均8勝7敗ですね。2連敗すれば3連勝しないと勝ち越せませんから、12年間平均して勝ち越すという事は至難の業なのですよ。私自身が12年間相場の修羅場の中に身を置いて得た教訓はただひとつ。「相場に占いの水晶玉も無いし、打ち出の小槌も無い」ということでした。

【Q2】では、ご自分では金などへの投資はされないのですか?

【A2】短期での投機的売買は一切しません。ゼロサムゲームの虚しさをいやというほど体験しましたから。しかし、金というのは、長期でジックリ持つと、これが、なかなか頼りになる奴なのですよ。個人的にも、リーマンショック前後の市場混乱期には、金を持っていたおかげで随分と救われました。

【Q3】しかし、今回の欧州経済危機では、金も株も「リスク資産」として同時に売られたりしていますよね。

【A3】はい。市場の流動性が枯渇するクレジット・クランチ(信用収縮)が起きると、金よりキャッシュが選好され、換金売りが顕著になります。リーマンショック直後にも同様の現象が見られました。しかし、流動性選好の金売りが一巡すると、値頃感から中国・インドの民間そして公的部門から長期保有の買いがジワジワ出て、ほどなくリーマンショック前の水準を回復して長期上昇トレンドに戻りました。

【Q4】でも、今回は中国経済の減速も顕著ではないですか。

【A4】6月のギリシャ再選挙の前週に私は出張で北京にいました。欧米市場ではリスク・オフ・モードが市場を支配し、リスク回避と称する売りが出ていた時期です。ところが、北京の「中国黄金第一家」つまり、中国最大のゴールド・ショップを訪問したところ、そこでは、普段着の中国人顧客たちが金宝飾品や金地金を行列に並んで、買い漁っていました。「リスク・オフ」などという意識とは全く無縁の別の世界がそこにはあったのです。

かたや投機的な売りは早晩買い戻されるゼロサムゲームの世界。かたや買いっぱなしの世界。結局、長期的には中国の買いが残るのではないでしょうか。経済減速の影響といえば、昨年は1,700ドルでも積極的に買いを入れていましたが、今年は1,500ドル程度まで買いの価格水準を下げてきていることでしょうか。それでも通年では特に規制緩和特需もあり昨年を上回る需要量を記録しそうです。北京のその店で大勢の若い男性客が太い金の指輪を買っている光景に出くわし、購入理由を尋ねると、なんと故郷のお父さんに仕送りとして買い求める孝行息子集団だったのです。文化的金選好度が高く、金需要の所得弾力性が低いことを実感しました。

【Q5】それでは、今年はもう金価格が下がらないと考えてよいのでしょうか?
【A5】私はアテネへも出張していますが、現地での感触として、2012年の年末までまだ2回程度は欧州発リスク・オフの短期的売りが市場をヒットする可能性があると実感しました。でも、北京では、中国が、そこを買いのタイミングとして狙っていることも実感しました。

コラム執筆:

豊島逸夫(としま・いつお)

豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。2011年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに 金の第一人者として素人にも分かりやすく 独立系の立場からポジショントーク無しで 金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。

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