マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
ドル/円相場が日替わりで陰線と陽線を描いており鯨幕相場の様相です。(鯨幕とはお葬式などで使われる白と黒が交互に並んだ縦縞の幕のことを呼びます。)2012年7月下旬から78円台で上下数十銭程度の動きに終始しトレーダー泣かせの揉み合い相場となっています。トレンドが出ない相場はやりにくいものですよね。季節要因的に欧米勢が夏休みに入ってしまっているということもあるのすが、8月の第1週にはFOMCやECB理事会、雇用統計など市場関係者が注目するビッグイベントが重なったのにトレンドが全く出なかったドル/円相場の膠着ぶりには驚きを隠せません。
先週7日に消費増税を含む一体改革関連法案に反対する野党が内閣不信任決議案を提出した際、消費増税法案などが廃案になれば日本国債の格下げも視野に入るとして一時円安が進行する局面が見られたのですが、結局法案は成立。法案不成立なら財政再建に後ろ向きだとして日本売りシナリオとなり円安進行となると色めき立った向きも合ったのですが、これも消えました。
そもそも8月は米国債の償還、利払いなどを背景に円高になりやすいと言われ(実際に過去14年で12回も8月円高に)8月第1週のFOMCやECBで追加緩和が発表されなかった失望を考えると、もっとリスクオフから円高が進行していても不思議はないと思うのですが、ドル/円相場、下は77.90円でピタリと止められそれ以上の円高進行とはなっていません。何故これほど77円台から下が固いのでしょうか。
今、一部の市場関係者の間で○○っちリスクという言葉が囁かれているそうです。○○には本邦財務大臣の名前が入るのですが、リスクとは一体どういうことでしょう。
昨年2011年は、急速に進んだ円高に対応するために、日本政府は3回の円売り・ドル買いの為替介入を行いました。1回目は、東日本大震災直後の3月18日、規模は約7000億円。震災直後のパニック的な円高となったため10年ぶりの欧米との協調介入でした。
2回目は2011年8月1日の4.5兆円規模の単独介入。一時的に円高是正とはなりましたが、半月後にはあっさりと戦後最高値を更新しています。そして3回目の2011年10月31日。これは度肝を抜く8兆円規模の巨額介入、勿論1日の介入としては過去最高額です。1日8兆円です。この時、安住財務大臣は「納得行くまで介入したい」と発言しましたが、後にこれだけの規模にもかかわらず介入には欧米とのコンセンサスがとれていなかったことが判明しました。ECBゴンザレス理事は「単独での介入は好ましくない」と発言、ECB前総裁トリシェさんも「このような介入は多国間の総意に基づいて実施される必要があると考えている」と。米国も外国為替報告書で「米政府はこれらの介入を支持しなかった」と批判をにじませています。
つまり、安住さんは欧米とのコンセンサスもなく1日に8兆円規模もの為替介入をやった実績があり、(常識では考えられないとのこと)今後も欧米事情はお構いなしに単独で介入をやる可能性があるとみられているようです。尋常じゃないやり方で。一部市場関係者の中では、これを○○っちリスクと呼んで警戒しているということなのですね。だからドル/円はピタリと78円割れでは止まるのではないかという見方が出ているのです。
確かにギリシャのユーロ離脱などが騒がれ始め、欧州問題が話し合われた2012年6月6日のG7財務相電話会談でも「行き過ぎた円高は困る」と、ひとり「円」の話をしたという話がありました。周囲は呆気にとられていたとかなんとか。主題は欧州問題だったのに...です。その各国の意向を考慮せずに、何をするか分からないと世界に恐れられており、功を奏しているという指摘もある、○○っちリスク。要するに介入警戒のことです。今度の日本の財務大臣は本気だぞ、ということでしょうか。前号メルマガでも書きましたが、このリスクがある限り8月円高アノマリーは今年に限っては外れてしまうのではないかなぁと思っているのです。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
TwitterAccount
@hirokoFR
マネックスからのご留意事項
「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。
商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。