マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
9月の相場動向がそのまま年末までのトレンドとなりやすいという話があります。レイバーデー明け、夏休みから戻ってきた機関投資家勢が下期トレーディングをスタートさせますが、クリスマスまでの期間の成果がそのままボーナスに繋がるとあって、かなり積極的なトレードをするためレンジにはなりにくく、彼らは下期スタート時の初動の戦略で出来たトレンドに乗るトレンドフォローで利益を上げることが多いという事のようですが、これはあくまでテールリスク(※)の少ない環境下でのこと。現在のように脆弱な相場環境ではこの限りではないでしょう。
今年は日米欧の金融緩和政策が明確となったため、普通に考えればスケールの大きいリスク・オン相場がやってくると思われますが、実際にはECB、FRBの緩和策発表後は買われたものの日銀が緩和策を発表するころにはリスクアセットは売られ始めており、主要国の金融緩和期待で作り上げられてきた上昇トレンドは一服しているようです。果たしてこれは単純な手仕舞い売りによる調整とみて、押し目買い戦略継続で大丈夫なのでしょうか。
時を同じくして中国のデモの混乱や権力闘争などが問題視され始めており、マーケットはチャイナリスクを意識し始めたかにも見えます。
米国の株価が高値圏で推移している環境下ではQE3はないという予想もかなりあった中でのQE3発動。オープンエンド方式といって期限を定めず労働環境の改善がみられるまで継続して緩和政策を続けるという非常に積極的な内容だったことはサプライズでしたが、裏を返せば今このタイミングでこれほどの切り札を切らなくてはならない何かがあるのではないか、とも囁かれています。
QE3発動の背景には余程の悪いシナリオが隠されているという懸念にも繋がっているため、これでリスク・オン相場が継続出来ないようだと瞬く間にセンチメントが変わってしまう可能性も否定できません。ECBによる南欧諸国の国債無制限購入という政策も、あくまで足元のスペインの破綻懸念が先延ばしされただけです。ユーロの下げ止まりは売り方の買い戻しが誘発されただけであり、積極的な評価としてユーロを買う材料はまだひとつもないのです。
ユーロドル相場が底入れし上昇を開始したのは7月25日。実はまだ欧州リスク山積で、何の解決策も見えなかったのですが、ノボトニー・オーストリア中銀総裁がESMに銀行免許を付与するといった発言をしたり、ドラギ総裁がBelieve me私を信じろ!と発言したことで市場関係者は大きな対策が出ることを期待し、思惑だけでユーロが上がり始め、そこからユーロは最終的には1000PIPSもの上昇を見せました。
相場がスタートするのは、何か良い材料が出たというタイミングとは限りません。売って売って売りまくっても下がらなくなった相場というのは、良い材料がなくても思惑で買い戻されていきます。今回のユーロ/ドル相場の場合、ノボトニー氏やドラギ総裁、メルケル首相といった要人発言から大きな救済・緩和策が出るだろうという思惑を先取りして上昇していきました。そしてそれはドラギ総裁の約束を果たす形で実現し、ECBだけでなく日米欧の緩和策が出揃った時、この金融緩和政策期待相場は既に古いシナリオとなって、手仕舞いの嵐に合うのです。
市場は大変移り気です。次の材料となるものを探して新しいテーマで相場が作り上げられていきます。おそらくここからはアメリカ大統領選挙を睨んだテーマが生まれ、市場のトレンドとなっていくものと思われますが、中国の全国人民代表大会に向けて権力闘争が激化している現状も懸念され始めており、これが主要テーマとなる可能性も出てきているのではないか、と私は、感じています。世界が金融緩和で脆弱なマーケットを全力で支えたとしても、実体経済が回らなければ本質的な景気回復は見込めません。
頼みの綱である中国経済の失速は想像以上だとの指摘も出てきています。中国からの消費が見込めないとなると世界景気に与えるインパクトは計り知れません。特に一次産品を中国に輸出しているオーストラリア経済の今後にも暗雲が。チャイナリスク、そして豪ドルの失速が次なるテーマとなるかもしれません。市場はすぐに次の材料、新しいテーマを探してトレンドを作り上げるものなのです。
※テールリスク
発生確率が小さいが、生じると大きな損失のこと。2008年のリーマン・ショック等のように短期的に大きな下落に見舞われたこと等を指す。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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