第50回 ポンド売りに注目。何故ポンドが売られるの?!【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

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第50回 ポンド売りに注目。何故ポンドが売られるの?!【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

格付会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは先週22日、英国の自国通貨建ておよび外貨建てソブリン格付けを最上級の「AAA」から1段階引き下げ「Aa1」とすることを発表しました。格付け見通しは「安定的」ですので更なる格下げはなさそうですが、この発表を受けたポンドは暴落となりました。

このところ、イギリスの通貨ポンドの弱さが顕著化しています。ポンド/ドルは今年の始めに1.63台の高値をつけた後は下落が続いています。すっかりレンジに入ってしまったドル/円、クロス円に変わってポンド/ドル、ポンドクロスがはっきりとしたポンド安トレンドを描いているため、現在のファンド勢にとってのトレンド(流行)は、円売りよりもポンド売りだとの指摘も聞こえてきます。何故今、ポンドがこんなに売り込まれてしまっているのでしょうか。

① 財政緊縮政策による経済成長低迷
ムーディーズは英経済の低成長が2015年まで続くと予想しています。その背景にあるのが、財政緊縮策のために中期的な成長見通しが低迷することへの懸念と、公的債務が高水準なうえに増加している結果、政府財政の衝撃吸収力は16年まで悪化が止まらないためだとしています。緊縮財政による成長低迷はイギリスだけではなく欧州も同様の問題を抱えているため、ユーロにもいつ大きな下落に見舞われるかわからないという指摘がありますね。

② ロンドンオリンピックの反動での低迷
英国の2012年第4四半期(10~12月)のGDP国内総生産は前期比マイナス0.3%となっています。第3四半期(7~9月)0.9%の拡大となっていたのですが、この時期はロンドンオリンピックが開催されたことによる押し上げ効果だったとみられ、凄まじい反動が数字となって現れています。北海での石油・ガス生産の縮小や製造業の不振も市場予想以上に落ち込んでおり、英国は2008年の金融危機以降で3度目のリセッション(景気後退=2期連続のマイナス)に陥る懸念が高まっているのです。

③ 昨年までの流れの巻き返し?!
昨年のポンドは堅調でした。昨年までのドル相場が円高だった頃、リスク回避で円買いと言われていましたが、何故かポンドもリスク回避で買われていたのです。振り返ってみると昨年までのリスクは欧州問題とアメリカの財政問題で、通貨で言えばユーロと米ドルのリスクでした。米ドルやユーロを保有するリスクを避けるために消去法で円やポンドが選ばれて買われていた、という状況だったのでしょう。しかし現在は米国も出口論議が出始めるほどに回復を見せており、ユーロのテールリスクも取り払われたことで、昨年までの相場の大きな巻き返しが起こっているため、ポンドに逃避していた向きがポンドから逃げ出していると考えられます。

④ 英国に大胆な追加金融緩和の思惑拡大
2月6-7日に開催されたMPC英金融政策委員会では政策金利据え置きは9対0と全会一致だったものの、資産購入枠の拡大を主張したのがこれまでのマイルズ委員1人からキング総裁とフィッシャー委員も加わったことが判明しており、利下げやその他資産購入などの措置についても検討されていたことも明らかとなりました。また、キング総裁の後任は現在のカナダ中銀総裁・カーニー氏に決定していますが、市場はカーニー氏はインフレ目標の緩和を支持すると見ており、大胆な追加の金融緩和を行うのではないかという思惑がポンド安の一因となっているようです。ただし、カーニー氏は今月7日の議会証言で、非伝統的政策を脱却しなければならない、と述べたことでポンドが急伸する局面もありました。どんな手段に打って出るのかはまだわかりませんが、現カナダ中銀総裁マーク・カーニー氏の発言には要注意です。就任は7月1日予定。

また、ハト派で知られるイングランド銀行の金融政策委員会のマイルズ委員が21日の講演で、経済成長率が潜在成長率を大幅に下回れば、イングランド銀が金融刺激策を再開し、国債買い取りを通じた量的緩和策の枠を最大で1750億ポンド(2670億ドル)追加する根拠になるとの見方を示しています。

⑤ 他の格付会社の格下げリスク
英国の格下げは大手格付け会社のなかでムーディーズが最初です。この後、スタンダード&プアーズやフィッチ・レーティングスがどう出るかにも注目です。両者とも現在は英国をトリプルAに格付けしているのですが、見通しはいずれも「弱含み」、格下げのリスクは充分に考えられますね。

ポンドは「悪魔の通貨」とも呼ばれ値動きが激しくトレードが難しいと敬遠される傾向にあります。確かに今後ポンドが弱含むことが考えられるのですが、既に大きく下がっているため、戻りも大きくなることが予想されますので、売るタイミングには充分注意してください。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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