第51回 リスクオン相場なのに豪ドルが弱い理由【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第51回 リスクオン相場なのに豪ドルが弱い理由【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

豪ドルの元気がありません。豪ドル/円相場はドル/円が大きな円安トレンドを描いていることからこれに連れて97円台半ばまで大きく上昇してきましたが、豪ドルと米ドルのペアで見ると、今年の1月10日に1.5975ドルの昨今のレンジ上限付近の高値を付けた後ずっと下落が続いているのです。米国株も史上最高値更新目前、日本株も押し目待ちに押し目なしの上昇相場。一方でリスク回避時に資金が流入する金が弱い・・・ということは積極的なリスクオン相場の様相です。為替市場では昨年まではリスクオン相場時には豪ドル買いとなっていたのですが、どういうわけか現在は豪ドルが売られています。何故今、あれほど強かった豪ドルが弱いのでしょう。

◆ 中国景気後退懸念

オーストラリアの最大の輸出先は中国です。中国の景気が悪化すれば輸出が減少してしまうため、豪ドルは中国の動向に敏感に反応することから「疑似人民元」としての側面もあるとされています。

その中国ですが、昨年2012年7-9月期の中国のGDP成長率は前年同期比7.4%の伸びと7期連続で伸び率が鈍化したことで景気減速が懸念されていたのですが、10-12月GDPが7.9%の伸びを示したことで、中国の景気は底入れした、と評価されていました。しかしその勢いは疑わしく中国の2月の製造業活動を示す2つのPMI購買担当者指数は予想より悪く、中国の景気回復が勢いを失いつつある状況にあることを示唆しています。昨今では大気汚染による環境規制なども懸念されていますが、一部には中国から出てくる良い経済指標は信用できないという見方も出てきています。さらに、中国は前週末に個人による住宅譲渡に20%の所得税を厳格に適用する方針を発表し、不動産引き締め強化の姿勢を強めたことで4日月曜の上海株は3%を超える下落。上海先物市場でも不動産引き締め策が商品需要を減退させるとの思惑で鉄筋先物も3%程度の下落となりました。そして、この下落に最も敏感に反応したのが豪ドルで豪ドル/米ドルは1.0115ドル近辺、豪ドル/円は94.45円近辺まで売られました。

◆ 商品価格の下落

オーストラリアの輸出品目ベスト3は鉄鉱石(24.5%)石炭(17.9%)原油(4.4%)(※2011年)などとなっており、鉱物燃料だけで、およそ65%を占めています。金生産は中国に次いで世界第2位。このため、豪ドルはコモディティ価格の動向に影響を受けるのですが、このところドル建ての金価格が下落を続けており、2012年第4四半期に著名投資家ジョージソロスの金ETFの保有が減らしていたことなどが明らかとなっています。原油価格も下落に転じており、CRB指数と呼ばれる商品指数は2月初旬に頭打ちとなり下落トレンドに入ってしまいました。これも豪ドルにとってはネガティブ要因となっています。

◆ 政策金利引き下げスタンス

オーストラリアの政策金利は2008年には7.25%もの高金利でした。しかし、リーマンショック以降は金利が引き下げられ、現在は3%にまで下げられています。
今日、RBAオーストラリア準備銀行は、市場予想通り政策金利を現行の3.00%に据え置くことを発表した。豪ドル/米ドルは政策金利発表後に若干下押しした後、大きく買い戻されています。一部で利下げを予想していた向きの買い戻しが入ったものと思われますが、一時的な動きでしょう。今回のRBA声明は「現時点のインフレ見通しに基づくと一段の金融緩和の余地ある」というもので、内容は前回の声明とほぼ変わっていません。つまり今後発表される経済指標次第では、利下げスタンスは継続されるものと考えられ、これも豪ドルにとっては頭を押さえる要因となっています。

今日の利下げ実施より前、2月8日RBAは四半期金融政策報告で2013年の成長率見通しを2.50%とし、従来の2.75%から引き下げています。同時にインフレ見通しも3.00%と3.25%から引き下げました。成長見通し引き下げには、鉱業投資は今年ピークに、鉱業以外の投資が回復する兆しはほとんど見えないこと、向こう数年間の雇用の伸びは人口の伸びを下回り失業率は上昇するだろうことが材料として挙げられています。この報告を受け、市場は3月利下げを意識し始め、すでに豪ドル売りが広がっていました。今回の引き下げにとどまらず、利下げスタンス維持ということであるならば引き続き豪ドルの頭は重いしょう。

◆ 米ドル高

対円でみる豪ドル/円ではそれほど豪ドルの弱さを実感できないのは、豪ドルよりも円が弱いからですね。しかしこれが豪ドルと米ドルの力関係でみると明らかに米ドルが強い。これはユーロやポンドに対しても同じで、米国は景気が堅調なことから早期緩和解除予想が広がってきており、米ドルが堅調となっています。またシェール革命などもリーマンショック後市場を席巻した米ドル崩壊説を覆してしまいました。米ドルの復権がそれ以外の通貨を安くしてしまっているという側面も見られるのです。

このような背景からリスクオン相場にあっても豪ドルが弱含んでいるのですが、ここから世界景気の成長を牽引していくのは中国ではなく、米国である、ということを象徴した動きなのではないかと思います。とするならば対円での取引では素直に米ドルを買って長期保有するというのが賢明ではないでしょうか。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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