第57回 為替報告書って何?!【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第57回 為替報告書って何?!【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

風向きが変わったのでしょうか。

100円大台突破を見込んでロング(買いポジション)を構築して来た向きが一旦手仕舞いに動いているようです。ドル/円相場は先週12日金曜に1ドル99.95円近辺まで円安ドル高が進行しましたが、100円の大台達成することなく崩れてきました。金曜のNYクローズ直前に(土曜13日の早朝NYがクローズする直前の5時15分頃)米財務省が議会に提出した「為替報告書」の内容が伝わり急速に円高が進行、その流れを引き継いで週明け15日の東京市場でも大きく円高が進行しています。

円高進行の原因となった為替政策報告書とは一体何なのでしょうか。

アメリカ財務省は1988年から毎年2回議会に対して為替政策報告書を提出しています。この報告書の内容に基づいて、アメリカ議会は対米通商を有利にすることを目的に為替介入し為替相場を不当に操作している国を「為替操作国」と認定するのですが、この為替操作国に認定された国はアメリカと2国間協議を行わなくてはならず、アメリカから通貨の切り上げを要求されたり、必要に応じて関税による制裁されたりするのです。要するに米ドルに対し通貨安政策を採っている国にはアメリカが制裁を行うぞ、というもので、過去には台湾・韓国・中国が為替操作国に認定されたことがあります。1994年以降は為替操作国に認定された国はないのですが、2000年代に入って以降、中国人民元の為替レートが人為的に低水準に保持されているとし、中国を為替操作国に認定すべきだとの議論が毎回のように持ち上がっていますが、米中関係を慮って為替操作国認定は見送られている状況にあります。

今回この為替報告書において「日本は、競争的な通貨価値引き下げを自制するべきである」「通貨の引き下げ競争を控え、G7やG20で合意した約束を守るよう、日本に対し引き続き働きかけていく」と記載されたことが伝わり、為替市場では急速な円の買戻しが起こったのですが、そもそも今回の為替報告書は今週以降に発表される予定でした。今月3日、米財務省は提出期限を4月15日以降に延期する、と発表していたのです。延期の理由についてガイトナー米財務長官は「今後3カ月間に世界経済の不均衡是正に向けて極めて重要な一連の会合(4月下旬開催予定のG20財務相・中央銀行総裁会議、5月の米・中経済戦略対話、6月のG20金融サミットなど)がある」と述べていましたが、市場関係者の間では、中国が議題に上ることはあっても日本が議題に上ることはないという楽観があったのかもしれません。これまでアベノミクスに関してはアメリカのお墨付きがあると理解されてきましたが、そのアメリカが日本に向けて通貨価値引下げを自制すべきと言ってきたことへの動揺、そして発表のタイミングが延期された今週でなかったことも嫌気されたのではないか、という気がします。

しかしながら、この為替報告書は非常に政治的な色合いが濃く、自動車などのドル高に喘ぐ国内産業や、そうした産業が票田となる議会に配慮する目的もあったのではないか、とも考えることができます。アメリカも一枚岩ではありません。米自動車大手3社(ビッグスリー)で構成するロビー団体の米自動車政策会議は、安倍政権の円高是正に向けた通貨政策について、対抗措置を取るようオバマ政権に要請しています。

今週18-19日にはワシントンでG-20財務相・中央銀行総裁会議が開催されますが、前回モスクワで開催されたG20 では、「為替操作を利用して自国経済を支援することはない」とのコンセンサスで一致していることから、その後の日本の政策に批判の声でもヘッドラインで飛び出せば、ドル円相場は一段の円高進行となる可能性もあります。
また市場関係者の間には日本のTPP参加が円安容認の条件となっているのではないか、という憶測もあり、アメリカ側の交渉カードのひとつとして今回、為替報告書に日本に対する項目が盛り込まれたとの指摘もあります。今週はこうした報道にドル円相場が神経質に振り回されることもあるかもしれません。

4か月あまりで20円近くも円安ドル高が急ピッチで進んだ相場にとっては、いい調整のきっかけとなりましたが、しかしながらアメリカが本気で日本の政策に対抗措置を取るとは思えません。100円の大台突破にはエネルギー不足となっていたドル円相場にとってはテクニカル的に、あるいは日柄的に一定の調整が欲しかったところでした。異次元相場には何ら変化はありませんので、短期的には調整局面となっても買い場を探して円売りポジションを構築するスタンスは継続でいいものと考えています。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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