第5回 不動産株を読み解く【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第5回 不動産株を読み解く【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は値動きの荒い展開が続いています。特に、商いの薄い先物(の夜間取引)がかなりの攪乱要因となっており、ファンダメンタルズを軸とした投資家はそれに翻弄される状況を強いられています。高値からの調整はかなり進んだことで値ごろ感も出てきてはいますが、相場の先行きが読み難い状況ではなかなか手を出し難いというのが多くの投資家の本音ではないでしょうか。ただし、前回も触れましたが「全員が強気の時こそ売りを、全員が弱気の時こそ買いを」、冷静に考えなければいけません。むしろ、興味深い銘柄をじっくり研究する好機と位置づけてみたいところです。

さて、「テーマを読み解く」とした本コラムですが、5回目となる今回は、不動産関連、特にJ-REITを取り上げてみたいと思います。J-REITを含む不動産株は、アベノミクス相場を先導して急上昇した後、実は市場が急落する前の時点で、市場に先んじて調整(下落)に転じています。まさにこの相場の先行指標とも言える動きをしていると言えます。不動産株については、以前の「外国人投資家目線で見るグローバル株式徹底比較!」のコラムで12月に取り上げていますが(いいタイミングでご紹介できました!)、今回は株価が大きく調整してしまったこれからをどう考えるか、に焦点を当ててみたいと思います。

そもそも、今回の相場において不動産(J-REITを含む)株が主導的役割を果たしたのは、アベノミクスの大胆な金融緩和政策に拠るものが大きかったと言えます。現実には2012年年初からJ-REIT株は上昇し始めていましたが、これも利回りの(相対的な)高さが投資魅力度を引き上げたものでした。一段の金融緩和政策による市中金利のさらなる低下観測がREITや不動産の現在価値の上昇に繋がったのです。例えば、不動産賃料を収入とするREITで考えてみると、賃料相場に大きな変化がない限り、基本的に分配金(配当)が増えることはありません。アベノミクスとは言っても、現実経済において早々簡単に賃料相場が上昇するはずもなく、当然REITも少なくともしばらくは分配金に変化は見込みづらいというのが自然な見方になります。つまり、(誤解を恐れずに極論すれば)実態はさておいて、まずは金融政策のみが株価の上昇を牽引したのだと言えるでしょう。

しかし、4月の黒田日銀総裁の会見以降、政策の打ち止め観測から長期金利が急上昇してしまいました。すると、不動産株への追い風は止み、むしろ逆風となってしまいます。直近はかなり金利動向にも落ち着きがみられますが、それは「逆風が凪いだ」ことで「追い風が吹いた」わけではありません。既に金利は上昇過程に入ったとの見方を採れば、これまでと同じ構図での不動産株の上昇は期待し難いという結論になってしまいます。市場の急落が引き起こされる前に、不動産株が逸早く調整に入ったのはこういった風向きの変化を市場が織り込んできていたため、と言えるのです。

これは非常に大きな教訓です。金利と株価の関係は経済学、証券理論の基本中の基本です。如何に市場が熱狂していようが、根本にあるロジックは冷徹に反応してきます。どれだけ市場が盛り上がっていようが、基本原則を忘れてはいけない、ということです。なお、蛇足ですが一言。では、不動産株の相場はもう終わりか?と思われる方もいるかもしれません。筆者はそう思いません。今後、賃料が実際上がってくる、不動産価格が上昇してくる、といった現象が顕在化してくれば、こんどは「風」はなく「利益」が株価を牽引するはずです。そうです。株価は企業の利益で決まる、というのも基本中の基本なのですから。

コラム執筆: 長谷部 翔太郎

証券アナリスト。日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investor 誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開。著書は、『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を知っている』『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』その他多数。 過去に「業種別アプローチで極める、銘柄選び」を執筆。

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