第73回 8月円高アノマリー通りになるか 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第73回 8月円高アノマリー通りになるか 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

ドル/円相場は5月23日に103.70円台を付けてからすっかりレンジ入り。アベノミクス、異次元相場をテーマにした円売り主導の円安トレンドは終了してしまったようです。現在ドル/円相場は米国の出口論議が最大の関心となっており、QE縮小開始時期を巡ってドル主導で神経質に動いています。先週発表された米国の7月の雇用統計はNFP(非農業部門雇用者数)が予想の数字に届かず、前月、前々月分の数字も下方修正されたことからドル/円相場は急降下。早ければ9月にもQE縮小開始となるというコンセンサスが後ずれする可能性がでてきたとの思惑で、ドル安が進行しました。

すっかり夏休みに入ってしまったマーケット、ですが、マーケット関係者の間では、8月は円高になりやすいというアノマリー(合理的な説明ができない現象)はあまりにも有名です。1990年から過去22年を遡って検証するとドル/円相場は円安だったのはたった5回。18回円高だったということで円高確率は実に81%。アノマリーとはいえ、8月は年間で最大の円高確率を叩き出してきた事実を無視することはできません。

その背景には、8月の米国債の償還による資金返済と利払いが一番大きいからだ、という指摘があります。日本が米国債を買っていた場合の利息が米ドルで支払われるため、その利払いを円に替える際に起こる円買い圧力が一時的な円高に繋がるとの解説ですが、実際には償還分は再投資されるとか、現在では利払いの円転のボリュームは市場にインパクトを与えるほどではないなど、この説に否定的な見方も多くあるのが実情です。

また、71年のニクソン・ショック、90年のイラクのクウェート侵攻、97年アジア通貨危機、98年ロシア危機、07年仏パリバ・ショック、11年米国債務上限問題から米国債の格下げ...等々、何故か8月にはマーケットにインパクトを与える不吉なことが起ってきた経緯があり、8月を警戒する認識が強いことも心理的に「買うより、逃げろ」という投資行動に繋がっているともいえるでしょう。

今年8月も、アノマリー通りにこの円高に進むようなことが起こるとするならば、考えられるリスクは何でしょうか。

1番はやはり現在の大きなテーマ、米国の出口論議でしょう。先週は米国の4-6月期のGDP速報値が季節調整済みの年率換算で前期比1.7%増と、前期1.1%増から伸び率が拡大、また7月のISM製造業部門景気指数は55.4と、前月の50.9から上昇し2011年6月以来の高水準となっていたことで、早期の縮小開始への思惑が高まっていましたが、週末金曜に出た7月の雇用統計でトーンダウン。FRBのデュアルマンデート(2つの使命)は物価安定と雇用最大化です。今後も雇用系の指標には神経質に動いていくものと思われます。特に毎週水曜日に発表される新規失業保険申請件数、先週発表された7月27日までの週の新規失業保険週間申請件数は、季節調整済みで32万6000件と、前週比1万9000件減少、2008年1月以来5年半ぶりの低水準となりました。一時解雇を反映するこの申請件数は、自動車工場の夏季閉鎖に伴い7月の申請件数は大きく変動しやすいとされています。8月3日までの週の新規申請件数は、33万7000件へと再び増加する見通しであることから、さらにドル安円高が進む可能性も。


また、今年あれほど騒がれた中国のPM2.5 、大気汚染問題が最近聞こえてこないと思いませんか?それどころか7月に入って「中国に青空が戻ってきた」との指摘が聞かれます。青空というのは景気が良くなったという喩えではありません。本当に空気が澄んできているということのようです。つまり、中国の工場が一斉に止まってしまったということ。懸念されたシャドーバンキング問題は前政権の膿だしの一環で炙りだされただけで、資金供給すればすぐに騒ぎは沈静化したことから、一党独裁政治である中国がクラッシュする心配などない、として問題がこれ以上大きくはならないと指摘する向きも多いのですが、このところ中国から出てくる指標は冴えないものばかりですね。中国7月危機が騒がれ、7月が無事経過したことでの安堵の声も聞かれますが、この7月危機説というのは2年前の9月に、国務院発展研究センターの李佐軍研究員による内部報告で提示されたもので、12次五カ年計画中に大きな経済危機が訪れその時期はおそらく2013年7月か8月である、というものでした。まだまだ油断は禁物?!

テクニカル面からみても、ドル/円の日足チャートは綺麗な下落トレンドを描き始めたように見えます。また、月足チャートでは終値で一目均衡表の雲の上限を抜けきれずに下降しており、この8月にここを突き抜けていくほどの強い材料が出てくるとは思えません。やはり今年の夏、8月もアノマリー通り円高がやってくる、と考えておいていいのではないでしょうか。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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