第77回 何故有事にはドル買いなのか~今回は有事のドル買い有効?! 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第77回 何故有事にはドル買いなのか~今回は有事のドル買い有効?! 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

戦争や紛争などの「有事」が起こった場合、世界で一番流動性の高い米ドルを買っておけば安心という経験則を有事のドル買いと呼びます。8月最終週のマーケットはシリア情勢懸念が足枷となって、株安、ドル高へとリスク回避の様相を呈しました。ドルインデックスは81.3前後から82.36まで上昇しています。

いや、リスク回避となるなら「円高」になるのではないか?!という指摘もあります。ロジックとしては、リスク時には安全資産とされる米国債に資金が集まるため、米国債利回りが下落、日米金利差が縮小してしまうため、ドル売りが出て円高になってしまう、あるいは株が売られるため(日経平均が下落するため)に円高になってしまう、というものですが、少なくとも8月最終週はじりじりとドル高、円安が進んでいました。やはり有事にはドル買いが起こるのか?!とも見えなくもないのですが、実際にはシリア情勢よりも9月にも米国のテーパリング(量的緩和縮小)が開始されるのではないか、という思惑の方が材料視されていたという見方もできますので、まだ今回のシリア問題がマーケットに大きなインパクトを与える程ハッキリと材料視されているわけではないのかもしれません。英国議会が軍事加入を拒否したことや、オバマ大統領が軍事介入には議会の承認を得る意向を示したことをもあって、8月最終週後半のマーケットはこのリスクを軽んじたようにも見えました。

しかし、オバマ大統領は8月31日(土)ホワイトハウスで声明を発表し、対シリア軍事行動を決断したことを明らかにしました。ただし、具体的な軍事介入に際しては「米議会の承認を求める」と述べており実際に武力行使があるとしても9月中旬以降にずれこむとみられています。(現在米国議会は休会中で9月9から再開される)これを受けて、2日月曜の東京市場では、シリア問題は一旦棚上げし、オリンピック候補地で東京が一番優位であるといった内容の観測記事や、4~6月期のGDP改定値が上方修正されるなどの予測記事を材料にリスクオンの様相を呈し、日経平均株価も大幅上昇、ドル/円相場も99円台にまで上伸しました。しかし、この楽観は短期的なものと考えたほうがよさそうです。

ただでさえ9月には米国のテーパリング、日本の消費税増税の可否、オリンピック開催地決定などイベントが多く、マーケットを攪乱する材料に溢れているというのに、シリアへの武力行使問題も加わってしまい、ますます読みにくくなりました。

では仮に9月中旬以降にシリアへの武力行使が現実に行われた場合、マーケットはどのように反応するでしょうか。

ではよく言われる「有事のドル買い」は過去本当にそうだったのか?!検証してみましょう。下記は90年以降、米国が軍事介入した事例とその際のドル/円の動きです。

◆91年1月17日~3月 湾岸戦争:137円近辺から128円まで円高となるも3月にかけては140円超えのドル高に

◆95年8月30~9月20日ボスニアヘルツェゴビナ空爆:90円前後から103円近くまでドル高円安に

◆99年3月24日~6月コソボ空爆:120円近辺でのレンジが続く 

◆01年10月7日~アフガニスタン戦争:120円近辺から年末には130円超えのドル高に

◆03年3月20日イラク戦争:116円~122円でのレンジが続く

◆07年1月7日~ソマリア空爆:118円台から122円近辺までドル高

◆11年3月19日 リビア空爆:80円前後から瞬間76円まで円高となるもその後85円までドル高へと神経質に動く


やはり平均してみるとドル高となっている印象ですね。実際にはこうした軍事介入だけで相場が動いているわけではありませんので、もっとほかの要因で相場が動いていた可能性も高く、それは全て検証してはおりませんのであしからず。

有事の際、マーケットにパニックが起これば流動性の低い市場では値がつかず取引が不可能になるリスクが高まります。新興国市場などはまさにそうしたリスクが高いために、有事リスクが高まっているこのような時期に投資する市場ではありません。むしろ資金を引き揚げてキャッシュ化しておくべきでしょう。しかし、ファンドなどはキャッシュにして資金を寝かせておくわけにはいかないため、世界一流動性の高い「ドル」を選好するというのが「有事のドル買い」の構図です。どんなパニックでも値段がつかない、取引が不能になるというリスクが極めて低い市場だからです。もし、今回も何か大きな動きが起こるとするならば、やはりドルが買われる局面が出てくると思われますが、ただし、米国議会がオバマ大統領が示した軍事介入を否決した場合、大統領への信認低下、動けぬアメリカへの失望からのドル売りが起こる可能性もあるのではないか、と思っています。米国議会がどのような決断をするのか。この時期はリスクを小さくしておきましょう。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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