第32回 高齢者向け福祉・介護サービスの拡充が急務に【北京駐在員事務所から】

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第32回 高齢者向け福祉・介護サービスの拡充が急務に【北京駐在員事務所から】

中国では、生活水準の向上で寿命が延び、また一人っ子政策により若年者の数が抑制されていることから、人口構成の急激な高齢化が進んでいます。
既に生産年齢(15歳から59歳)人口は減少が始まっており、また2025年頃には、総人口も減少に転じると予想されています。
現在は、まだ14歳以下の年少人口が老齢(中国の定義では60歳以上)人口を上回っていますが、2020年頃にはこれも逆転する見込みです。

中国では、伝統的に「親孝行」が美徳とされ、子が老親の世話をすることが当然と考えられて来ました。
親の方も、老後に子の世話を受けることを期待して、子育てに力を注いている面もあります。
しかしながら、急激な経済発展と都市化で、進学、就職あるいは出稼ぎのため親元を離れる子が増え、また一人っ子同士が結婚した場合に、夫、妻双方の両親を世話することが難しくなる等、家族の力に依存した高齢者福祉が機能しなくなりつつあります。

このような状況を踏まえ、政府は在宅介護の支援サービスを中心とした高齢者福祉の充実策を
検討しています。
現在、在宅介護の支援サービス拠点は、都市部で41%、農村部では16%程度の設置状況ですが、これを2015年までに、都市部の全てと農村部の半分程度に普及させるとしています。

一方、養護施設等で福祉・介護サービスを受けることができる高齢者は、まだ僅かです。
2012年末時点で、中国の高齢者(60歳以上)は約1億9,400万人ですが、このうち福祉施設への入居者の割合は2%未満(日本の割合は5~6%程度)だそうです。
7月1日に改正施行された「高齢者権益保障法」では、「高齢者を持つ家族に対しては、高齢者との同居あるいは近隣での居住を奨励する。高齢者には配偶者あるいは子との移住の機会を与える。また家族による高齢者の介護を支援する。」と定めており、政府の施策も、家族による在宅介護を中心とし、これを支援する内容が主なものとなりそうです。
政府の担当者は、「急速に進む高齢化に対応し、実現可能な形で高齢者福祉の充実を図るためには、今後も家族による在宅介護の役割が重要」と話しており、親子の同居が難しくなっている現状との乖離も認められます。

政府の計画では、在宅介護支援のための拠点を、今後2年間で現在の2倍以上に拡充することになりますが、現在提供されているサービスは、質、量の両面でまだまだ不十分で、特に高齢者の感情、心理に対する配慮が欠けているとの指摘もされています。
サービス担当者への教育訓練も十分でなく、今後やみくもに規模の拡大を図っても、特に質の面で新たな問題が発生することが懸念されます。

日本でも、介護に携わる家族の疲弊や地域社会からの孤立が問題となっていますが、状況は中国でも同様です。新聞記事では、6年前からアルツハイマー病の母親を介護する男性のケースが紹介されており、資金不足で介護サービスを受けることができず、体力的にも、また精神的にも追い詰められていると報じていました。

専門家は、在宅介護の支援サービスだけでは十分でなく、経済面での支援も必要と指摘しています。
参考にすべき諸外国の例として、香港(高齢者を介護する者への所得税減税)やフィンランド(介護者への手当(支援金)の支給)が挙げられていました。
伝統的な倫理観のみで、「子は老親の世話をすべき」はもはや限界で、今後も家族による介護を
中心としていくためには、金銭的なインセンティブも不可欠と考えられます。
中国の現在の状況は、日本の高度成長期に見られた、都市部への人口移動と核家族化の進行に似ていますが、スケールの大きさと変化の速さは桁違いです。
国土の広さだけを見ても、家族による介護の困難さが容易に想像できます。成長の果実がこの分野にも十分に行き渡り、また都市部、農村部ともにサービスが充実することで、高齢者のみならず、家族を含め皆が幸福を得られるよう、政府の舵取りが期待されます。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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