第80回 ドル/円の上値を抑える二つの懸念材料 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第80回 ドル/円の上値を抑える二つの懸念材料 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

ドル/円相場は100円の大台をなかなか固めることができません。8月にはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)マネーがドル/円相場でドル買いに動いたとの指摘もありました。オリンピック東京開催決定に加え、4~6月期のGDP改定値が大幅上方修正となったことから安倍首相は10月に消費税増税を決めるとも報道され、アベノミクスも順調に見えます。しかし、ドル/円相場は98~100円の狭いレンジで推移に終始、上値が重くなっているようにも見えます。ドル/円の上昇を阻む要因は一体何なのでしょうか。

先週18日のFOMCでは、7割の確率でテーパリング(QE3の縮小)があると見られていましたが、先送りされました。量的緩和の縮小が始まると見ていた市場は、緩和マネー(ドル)の供給量が減少していくとの思惑からドルを買い、株を売るというポジションでイベントを待ち構えていたのですが、テーパリングなしの結果を受け、一転してドル売り、株の買戻しに動きました。米国長期金利は急低下。5月22日に、FRB議長のバーナンキ議長が年内にもQE3を段階的に縮小すると受けとれる議会証言をしたことから、金利が急速に上昇。9月6日には3%の大台にまで達しており、テーパリング開始の思惑からの米国金利の上昇で日米金利差が拡大し、これがドル/円の上昇の一役を担っていたのですが、日米金利差拡大というドル/円の上昇要因が剥落してしまったことが、上値を重くしてしまっていると考えられます。

しかし年内にはテーパリングは開始されるだろう、との見方が大勢です。この衝撃は一過性のもので、またテーパリング開始時期を巡って米国金利は上昇をはじめ、ドル/円をサポートするとの見方もまだまだ多いのですが、今回何故テーパリングが見送られたのかを考えると、後にずれただけだという楽観は禁物のような気がします。これだけのバラマキ政策を執ってきたというのに、雇用やインフレ率は思うような結果となっておらず、金利だけが先取りして上昇してしまう。こうした脆弱な環境のなかで緩和マネーを縮小させると、米国経済の回復は腰折れしてしまう、というのがバーナンキ氏の懸念している大きな問題なのです。

2008年9月、リーマン危機前のFRBのバランスシートは9000億ドル(およそ90兆円)程度でした。これが9月18日には3.7兆ドル(およそ370兆円)と約4倍に膨れ上がっています。バーナンキ議長が5月22日の議会証言で年内にもテーパリングを開始したい意向を表明していたことを考えると、FRBとしてはこれ以上の緩和は好ましくないと考えているのだと思います。5月22日、バーンナンキ議長が年内のテーパリング開始をほのめかしただけで新興国からは資金が引き上げられ、新興国通貨は大きく下落しました。日米の株価に与えた衝撃も記憶に新しいところです。テーパリングが継続されれば、株価は支えられますが、開始時期が遅れれば遅れるほど、米国のバランスシートは拡大を続けバブルが形成されていきます。今回テーパリングなしの結果を受けて、米国株は史上最高値を更新しました。バブルを招かないために、FRBは段階的に出口政策をとらねばならないのです。テーパリング開始が遅れれば遅れるほど、開始したときの衝撃が大きくなることが連想されるため、米国株はこれ以上の上昇トレンド形成は難しくなってきたのではないか、と思います。実際、すでに米国株式市場は調整基調ですね。

米国株が上昇できないとなると、リスクを嫌って米国債券市場に資金は流れ込みます。これで、さらに米国債利回りは下落することが予想され、ドル/円相場の頭を抑えることとなります。

さらに、22日ドイツ総選挙でメルケル首相が3期目も継続することが決まりましたが、ユーロの動向を振り返ってみると、この選挙結果は既にマーケットに織り込まれていました。

結果をみると全630議席のうち、メルケル氏率いるキリスト教民主・社会同盟は311議席で絶対過半数に5議席足りないという結果。これまで連立を組んできた自由民主党は得票率が4.8%にとどまり、議席を維持するために必要な5%に達していないことから保守連立与党で半数に届かないため、メルケル首相は最大野党の社会民主党のガブリエル党首に連絡し、4年ぶりとなる「保革大連立」に向けた最初の協議開始を打診したとされていますが、選挙後、社会民主党はキリスト教民主・社会同盟との連立に否定的な発言をしており、調整、話合いが長引くことが懸念され始めているようです。(2005年に行われた総選挙では投票日から組閣決定まで2か月かかっています。)こうした懸念が、一転ユーロを売る動きになって表れており、ユーロ/ドル相場は選挙後下落しています。これに連れてユーロ/円相場も崩れてきており、クロス円相場全体が軟調気味な展開となっています。クロス円相場が崩れてくると、これがドル/円相場の足を引っ張り、さらにドル/円相場の上値を重くしてしまうことも考えられるのです。

米国市場の調整、ドイツ総選挙でのメルケル優位のユーロ買い織込みの剥落で、為替市場でもドル/円、クロス/円の調整ムードが強まってきそうです。これが、ドル/円相場を簡単には100円の大台固めを許さぬ要因となるため、一段の円安にはさらに時間がかかるのではないかと見ています。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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