第44回 大学入試制度改革 【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第44回 大学入試制度改革 【北京駐在員事務所から】

中国の大学入試は、「全国普通高等学校招生入学考試(高考)」と呼ばれ、大学や専攻分野ごとではなく、日本の大学入試センター試験のような全国一斉、一発勝負の試験になっています。
但し、試験問題や科目ごとの配点は全国一律ではなく、省あるいは市により異なります。
このため、受験生は居住する省あるいは市の試験を受け、同じ試験を受けた者同士で各大学の入学定員枠(省や市ごとに配分が決められています。)を争うことになります。

以前より、高考では英語の負担が重いとの指摘があり、最近、一部の省あるいは市は配点あるいは難易度を引き下げる改革案を発表しています。
これらに加え、6日(金)には、政府の教育部(日本の文部科学省に相当)が、高考での英語の扱いに関する改革案を公表しました。近くパブリックコメントの手続に付される予定です。

最大の変更点は、現在は他の科目と同じく一回のみ受験可能とされているところ、英語については年数回の試験を行い、複数回の受験を可能とするものです。受験生は最高点を自身の英語の得点とすることができます。
米国等英語圏の大学、大学院に進学する外国人学生が受験するTOEFL(Test of English as a Foreign Language)に近いイメージです。

改革案は来年より一部の省で施行され、3年後の2017年に結果についての評価を行った後、2020年までに全国での実施に踏み切る計画となっています。

この案について、受験生や関係者からは歓迎する声が挙がっています。
最も多い意見は、複数回の受験ができることにより、一発勝負の運、不運の影響が回避され、受験生の能力をより正確に測定できるとするものです。
特に、リスニング(聴き取り)の試験では試験会場による条件の違いや突発事態が起こり得ますので、複数回のチャンスがあることは受験生の不安と緊張を和らげる効果があるものと思われます。
また、受験生が目指す専門分野や、他の受験科目との関係で、どの時期に、またどの程度英語に注力するかを各自が選択でき、受験準備の柔軟性が高まることもメリットと見られています。

この改革とあわせ、北京市の教育委員会は、高考に占める英語の難易度(必要とされる単語数)を引き下げることを検討しています。これも、英語を負担と感じる受験生には朗報となりそうです。

一方、複数回の受験が可能となることで、結果に満足できない受験生が、長期に渡り英語に注力することになり、むしろ負担が増加しかねないと指摘する意見もあります。
また、そもそも大学の合否が一発勝負の点数で決められることで、中高生の勉強が受験科目に、また試験対策に偏重していると指摘する声も根強く、専門家は、面接や論文を取り入れ、高考の得点のみによらない多面的な選抜が行われることが望ましいと述べています。

日本でも、現在のセンター試験に代え、複数回の受験が可能な「達成度テスト」を導入することが提言されています。
あわせて、各大学が実施する二次試験で、面接や論文を重視することも求められています。
理念は理解できますが、各大学の負担や公平性の維持等課題も多く、実現は容易でないように思われます。
学校教育あるいは入試の制度については、本当に正解がなく、どのような形にしても必ず問題が生じ、それを修正することの繰り返しになっています。
中国の入試改革が、受験生に過度な負担を強いることなく、各自の能力を正確に測定でき、また公平性を維持できるものとなるよう、願いたいと思います。

=====================================

コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

マネックスからのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧