第45回 地下鉄運賃の値上げは是か非か? 【北京駐在員事務所から】

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第45回 地下鉄運賃の値上げは是か非か? 【北京駐在員事務所から】

北京の主要な交通手段は地下鉄(中国語では「地鉄」と言います。)、バス、タクシーと自家用車になります。
「地下鉄」といっても、市の中心部を少し外れると地上を走る路線が多く、東京で言えば地下鉄(メトロ、都営)に通勤路線のJR、私鉄を合わせたような位置づけになります。

交通渋滞の激しい北京では、所要時間の読める地下鉄は貴重な存在ですが、朝夕の混雑は激しく、しばしば入場規制が行われます。こうなるとお手上げで、ただ待つしかありません。
東京では、団塊世代が退職年齢を迎えていることなどから、定期券の利用客が減少しているそうです。実際、通勤電車の混雑は徐々に緩和されているように思います。
それだけに、道路の渋滞もさることながら、北京の地下鉄の混雑ぶりには本当に驚かされます。

道路の渋滞は大気汚染の原因にもなっているため、北京市政府はマイカーの利用を抑制し、公共交通機関(地下鉄及びバス)への誘導を図っています。
そのため、地下鉄の運賃は乗車距離にかかわらず一律2元(約34円)と低位に設定されており、運営コストとの差額を政府が補助金として支出し、赤字を補てんする構図になっています。

この補助金が年々増加しており、2010年の128億元(約2,100億円)から本年2013年は180億元(約3,000億円)を超えると見られています。年率12%程度の上昇です。
増え続ける補助金に音を上げた北京市政府は、先週、現行の一律運賃制を改め、乗車距離に基づく逓増制の導入や、朝夕のピーク時の運賃の引上げを検討すると発表しました。
距離別運賃の最高額は8元~10元とする案が示されており、実施されれば現行運賃の4~5倍への大幅値上げとなります。

この運賃改正案を巡り、専門家の間で、あるいはネット上で激論が展開されており、賛否は真っ二つに分かれているそうです。
増え続ける赤字と補助金をこれ以上放置することは出来ないとの意見と、公共交通は社会福祉政策の一環として捉えるべきで、現行の補助金による運営を続けることが適切とする意見が対立しています。
新路線が続々と開業し、乗客が増えていることから、補助金の増加は必然との意見もあります。
北京市は、市内の通勤・通学者の60%が公共交通機関を利用することを目標としており、比率は年々上昇していますが、昨年2012年の割合は44%にとどまっており、まだ過半数が自家用車やタクシーを利用しています。地下鉄の運賃値上げにより、「60%」の目標達成が遠のくことも懸念されます。

自家用車の利用抑制に加え、今回の値上げ検討により、公共交通機関の利用も抑制の方向で政策が運営されているように思われ、一貫性を欠いているのですが、最大の問題は絶対的な容量(輸送能力)の不足です。
地下鉄の路線網も、東京など日本の大都市と比べると遥かに貧弱に見えます。短期的に改善を図るとすれば、自家用車の利用の一段の抑制と、バスの運転本数の大幅増くらいしかなさそうです。が、これも巨額の投資が必要ですので、実現は容易ではありません。
改めて、日本の都市部の公共交通機関の充実ぶりが有難く思われます。

北京市にとっては、公共交通機関への補助金削減により財政を健全化したい一方で、道路の渋滞も改善が必要です。
そして国全体では、大気汚染の軽減が重要な課題です。
北京市だけではなく、周辺の市や省との、さらには中央政府との適切な連携のもとに政策が実施され、様々な問題が解消に向かうよう願うのみです。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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