第95回 なぜ為替市場は「アメリカの雇用統計」で大きく動くのか 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第95回 なぜ為替市場は「アメリカの雇用統計」で大きく動くのか 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

為替市場のみならず、あらゆる金融市場が注目するアメリカの雇用統計。アメリカの雇用状況は金融政策の方向性を占う重要な指標だからです。アメリカではFRB(アメリカ連邦制度準備理事会)が、金融政策を司っていますが、世界の多くの中央銀行が「物価の安定」を金融政策の使命に掲げているところ、FRBは「雇用の最大化」も金融政策の目的のひとつとしており、2つの使命(デュアル・マンデート)があるのが特徴です。

昨年夏~11月までのアメリカの雇用統計は非常にいい数字が出てきていたために、雇用環境は力強い改善傾向にあると見られていました。FRBが、昨年12月に月額850ドルのQE3(量的緩和政策)のうち、まず100億ドルの縮小に踏み切ることを発表したのも雇用環境が整ってきたことがひとつの要因だったでしょう。FRBはリーマンショック以降、政策金利をゼロ金利にまで引き下げましたが、このような伝統的金融政策だけでは収まらなかった金融混乱を、非伝統的金融政策でコントロールしてきました。その非伝統的金融政策というのがQE1,2,3と呼ばれる量的緩和政策です。ゼロ金利政策と量的金融緩和策によって、アメリカの株価は2013年にはダウ平均、SP500、ナスダック指数ともに史上最高値を更新する回復を見せ、雇用環境も改善してきたことから、昨年12月、リーマンショック以降5年に渡って緩和政策を行ってきたFRBが「緩和縮小」に舵を切ったのです。国の金融政策はそうコロコロ変わるものではありません。緩和策も5年続きました。つまり、ここから数年は緩和縮小へ、そして引締めへと向かって行くものと捉えられ、こうした国の金融政策が、債券市場を動かし、為替市場を動かし、株価をも動かしていくのです。アメリカが緩和策縮小の一歩を踏み出したことは、今後のドルの先行きを大きく占う大きな材料です。つまり市場に流通するドルの量が減るという思惑からドル高となるだろう、このような思惑が年末から年始にかけての市場に蔓延していました。

それなのに!

先週末1月10日に発表された12月のアメリカの雇用統計は、市場の予想を裏切る大変悪い数字だったのです。この数字を受けて、為替市場では一気にドル売りが広がりました。初めてのFXという名のこのコラムでは、雇用統計の数字についての分析は避けますが、要するに、昨年12月に緩和縮小へと舵を切ったばかりのアメリカの金融政策は、今後もその方向へと粛々と進められるのだろうか?!という疑問が一気に広がったのです。緩和縮小は、今年開催されるFRBの8回のFOMC会合の場で、100億ドルづずつ縮小が発表され、月額850億ドルもの債券やMBSを購入するというQE3は、年内にはゼロになるという予想でしたが、市場にはこのペースに疑問を呈する声が出てきたのです。

量的緩和政策が、市場が予想するより長引くかもしれないと言う思惑が、今度はドル安の材料となってしまいました。ドル/円は週明け月曜には102円台にまで下落、ユーロ/ドル相場やポンド/ドルといったドルストレート(米ドル絡みの通貨ペア)でも全面ドル売りの様相となっています。では、このままドル/円相場は105円台が天井となって、下落していくのでしょうか。

1回の雇用統計の数字がFRBの金融政策を変えるとは思えません。特に12月分の雇用情勢は寒波の影響が大きく、季節性による「ブレ」だという見方が大半です。一部に緩和縮小のペースへの見直しがある可能性を指摘する声もでていますが、単月の数字悪化が影響することはないというのがマーケットの大方の見方です。ということで、大局ではドル高、円安のトレンドは継続すると思います。

それなのに、何故これほど為替市場ではドル売りが続いているのか。これは、今年最初のコラムでも書きましたが、行き過ぎた相場への反動によるもの。日経平均が年末大納会に向けて9連騰。ドル/円相場も連れて大きく円安進行となりました。大発会の波乱を受けて、総強気ムードに暗雲が漂い始めたところに、悪い数字が出たために、一気に弱気が噴出したための深い調整と見ます。よって、大局は国策に逆らうな。ドル高シナリオは米国の緩和縮小策だけでなく、本邦アベノミクスと日銀による異次元緩和策による円安と両輪です。ここからはどこまで下がったところで買うか、それだけです。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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