第49回 「男余り」が懸念される中国 【北京駐在員事務所から】

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第49回 「男余り」が懸念される中国 【北京駐在員事務所から】

中国では、特に農村部で、肉体労働の担い手としての期待が大きいことから、男の子を欲しがる夫婦が多く、毎年誕生する赤ちゃんの男女比がアンバランスになっています。

2004年に生まれた赤ちゃんは、女の子100人に対し男の子121.2人で、最も差が大きくなりました。
都市化の進行などにより人々の考え方が徐々に変化しているため、差は縮小していますが、昨年2013年時点でも、女の子100人に対し、男の子115人でした。
世界的には、女の子100人に対し男の子が103人から107人という国が多く、日本でも長期にわたり105人前後で推移しています。
中国では、出生前の性別判定や子の性別を理由とした中絶は違法なのですが、妊娠中の検診で超音波検査が普及したことから、実際には医師が妊婦に子の性別を伝えることが日常的に行われているそうです。実際、超音波検査が広く行われるようになった1980年代後半以降、赤ちゃんの男女の差が拡大しました。
80年代後半生まれということは、これから結婚適齢期にさしかかりますので、男性の結婚難が深刻になることが懸念されます。
最近では、より正確に判定できる羊水検査の技術も普及し、違法かつ危険と知りつつ検査を行う妊婦や、判定サービスを提供する業者が増えています。

新聞記事では、上海市に隣接する浙江省の義烏市で、妊婦に違法な羊水検査を行っていたグループが摘発されたとのニュースを報じていました。
2010年に義烏市で検査を始め、すぐに中国各地に拠点を広げたそうで、昨年2013年には1,000名以上の妊婦に対し検査を行ったと伝えられています。
首謀者の一人には、3年半の禁固刑が言い渡されました。
摘発のきっかけは、2012年に検査を受けた妊婦が死亡したことだそうで、何とも不幸な事件と言わざるを得ません。
この妊婦は農村部の住民で、既に女の子が一人おり、男の子を切望していたそうです。

このような事件だけでなく、様々な問題が懸念されることから、専門家は違法な検査や中絶に対する罰則を強化する必要があると主張しています。
しかしながら、「胎児の性別を知ることは親の権利」とする意見もあり、個々人の倫理観、人生観や感情にも係るものですので、合意形成は難しいのが実情です。

また、長年に渡る一人っ子政策が「一人しか持てないのなら男の子」との考えを助長しているとの意見がある一方、農村部は同制度の対象外(子供は二人まで可)であることや、そのような政策をとっていない韓国でも男女のアンバランスが見られることから、一人っ子政策がもたらす影響は小さいとする意見も多く、今月から実施されている一人っ子政策の緩和がアンバランスの縮小につながるかは不透明です。

最近では、男の子を望む富裕層の夫婦が、タイなど海外で産み分けに挑むケースが増えているそうで、ここにもお金がものを言う今の中国が反映されています。
お金があれば子の性別も、教育も、さらには国籍までもが自由になってしまうのですから、ますます拝金主義を助長しかねません。

子の性別についての親の希望は、個人の考えに加え、長年にわたり築かれた文化や価値観、さらに社会福祉等政策的な要素をも背景とした複雑なものです。
親の望みが実現するに越したことはないのですが、一方で男女のアンバランスは様々な問題を引き起こしかねません。
都市化の進展など社会の変化により、問題が徐々に解消することが望まれますが、道のりは長そうです。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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