第97回 にわかに飛び出したリスクシナリオ 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第97回 にわかに飛び出したリスクシナリオ 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

2014年は1月年明けから大波乱のマーケット。先週の下落のきっかけは23日木曜に発表された中国PMIだとの指摘が多かったのですが、24日金曜にはアルゼンチンの通貨ペソの急落が南アフリカランド、トルコリラなどの新興国通貨に波及したことなどが株式市場にも波及したと伝えられています。ドル/円相場は一気に102円台にまで円高進行となりましたが、この急落は調整なのか、はたまた相場はすでにトップアウトしたのか...。一体何が起こっているのでしょうか。

1)アルゼンチンペソの急落
先週末に最も大きく騒がれたのがアルゼンチンペソの急落。なんと23日は1日で12%もの急落となりました。ドル/円に置き換えると1日で10円以上の急落です。ペソチャートを見るともう何年も下落が続いており、ドル高ペソ安のトレンドが継続しているのですが、2013年11月から下落が加速しており、これはアメリカの量的緩和縮小が嫌気されているとの指摘も。アルゼンチン中銀は下落するペソを買い介入することでペソ安を防衛してきたのですが、介入資金であるアルゼンチンの外貨準備高が足元で約294億ドル(約3兆円)と直近のピークの2010年末から4割強も減っていることを政府が懸念しており、急落の前日22日には買い介入を実施しなかったことが、アルゼンチン当局が通貨安を容認したと受け止められ、急落に繋がったとされています。12年ぶりの急落となったことを受け、24日アルゼンチンは為替市場での変更事項を発表しています。国民は所得に応じてドルを購入でき、外貨購入への適用税率は35%から20%に引き下げられるとのことです。現在は国民がドルを買うことを中銀から拒否されることがおおく、闇取引が拡大していたようです。これを緩和することで国民のドル買いによる外貨準備の拡大(介入資金増)に繋がるという変更。一旦は下げ止まると考えられますが、そもそもの下落の背景がアルゼンチン国内だけにあるというわけではありません。

2)WSJ 1月FOMCでさらに100億ドルの緩和縮小の記事
ペソやリラなど新興国通貨下落は、アメリカの金融政策の転換が最も大きな要因でしょう。昨年、バーナンキ氏が2013年中のテーパリング(緩和縮小)を示唆しただけで新興国からは一気に資金が引きあげられました。そして実際に12月にテーパリングが発表され、さらに1月のテーパリングの観測が高まったところから、新興国通貨はさらに下落が鮮明となりました。テーパリングによるマーケットの混乱はすでに織り込まれた、始まってしまった以上もうリスクではない、との見方が台頭する中、決してそうではないことを再認識された相場です。

3)中国シャドーバンキング問題
先週中盤までは12月のPMIが50の景気判断の分かれ目を下回ったことが相場の下落に繋がったとされていましたが、実はもっと大きな問題が隠れていました。1月31日に償還期限が来る30億元(500億円強)相当の信託商品があるという中国のシャドーバンキング問題です。
これは中国工商銀行が発行した信託商品ですが、資金を借りた石炭会社はすでに倒産。資金が回収できない状況に陥っています。ところが、中国工商銀行は16日「責任は負わない」との姿勢を見せています。つまり信託商品の「デフォルト」があるかもしれないという状態にあるのです。しかし混乱の拡大と風評被害を無視できないとし、同銀行は24日に「償還に関し一定の責任を負う」と表明しました。28日まで、同信託商品に関する決定を発表するとしています。

4)IMF高官による円安牽制
先週、IMF副専務理事の篠原尚之氏が、日本銀行が掲げている物価安定目標2%の実現時期について2017年を想定、日本銀行が想定している2年間で達成できなくても追加緩和の必要はないとした発言をしたことが、一部金融関係者の間で懸念されたようです。また、週末には「IMF高官、円安の時期は終了した可能性」というWSJの記事も流れました。篠原氏は元財務官です。日銀の追加緩和期待は足許では遠ざかっていましたが、必要ないとまで言い切ったのが元財務官となると、何かこの人は情報を持っている上でのコメントなのではないか、という思惑も広がったようです。さすがに完全に追加緩和期待が剥げ落ちてしまうと、海外勢の日本へのさらなる投資も鈍るのではないかとの懸念が持ち上がっています。

今回の金融市場の急変の犯人は一人ではありません。これらのリスク要因が絡み合って一気に先週噴き出してきた、というように考えるべきでしょう。1日に12%下落というような行き過ぎた相場は自律反発もあるでしょう。しかし、これらのリスク要因がひとつひとつが潰されていかない限り、大納会に付けた日経平均の高値であるドル/円105.45円の高値を超えるシナリオはお預けです。しばらくは戻り売り基調となるでしょう。ドル/円は100円割れの修正局面となることも覚悟しておいてください。
コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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