第51回 海外移住、海外出産を目指す中国人 【北京駐在員事務所から】

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第51回 海外移住、海外出産を目指す中国人 【北京駐在員事務所から】

中国人の海外移住と言えば、まず思い浮かぶのが「華僑」です。
中国政府による「華僑」の正確な定義は、「中国大陸、台湾、香港、マカオ以外の国または地域に居住する、中国国籍を有する漢民族」なのだそうですが、主に貿易業、商業あるいは飲食業を営むことを目的に、世界各地に移住し定住している人々というのが一般的なイメージです。
日本の横浜、神戸や長崎を初め、各地に中華街(チャイナタウン)があることからも分かりますが、世界中に根を張っており、何世代にも渡り活躍する人々も多くいます。

近年、昔からの華僑とは全く違う理由、目的で海外移住を目指す中国人が増え、移住先の選定やビザの取得等、支援ビジネスの市場が拡大しているそうです。
北京にある海外移住関係のコンサルティング会社の担当者は、昨年2013年に、同社の顧客が前年から3割増加し、特に30代を中心とした比較的若い層で海外移住のブームが起きていると述べています。
同社の別のスタッフは、子女の教育が移住の最大の目的で、加えて環境問題(空気、水や食品の安全)や移住先の充実した社会福祉制度が動機になっているとしています。

従来、海外留学と言えば大学、大学院レベルの学生が中心でしたが、最近では中学、高校への留学も増えており、さらには小学校から子女に海外での教育を受けさせようとする親も増えているそうです。このような場合、多くは子の身の回りの世話などのため、家族ぐるみでの移住となります。
留学生としてではなく、永住ビザ(市民権)を取得して移住した場合、一般に授業料が安くなりますので、この点も移住を後押ししていると言われています。
移住には多額の費用がかかりますが、小学校あるいは中学校から在籍する場合、何年にもわたり授業料が安くなりますので、十分元が取れるというわけです。
また、移住し市民権を得ることで、移住先の医療保険や年金等、充実した社会福祉制度の恩恵を受けられること、また子の卒業後の現地での就職がより容易になることも魅力です。

海外留学の若年齢化に加え、一部の親は、子に外国籍を取得させるため、海外での出産を選んでいます。このため、「出産ツアー」等関連のビジネスが活況となっているそうです。
米国では、両親の国籍にかかわらず、米国内で誕生した子に米国籍を与える「出生地主義」が採用されています。このため、2012年には1万人以上、また昨年2013年には約2万人の妊婦が米国で出産し、子に米国籍を取得させました。
米国にはこのような妊婦を受け入れ、出産から産後のケアを行う施設が175ヶ所あり、そのほとんどが、中国人が多く気候が温暖なロサンゼルスにあるそうです。
米国が中国人に対するビザ発給の条件を緩和した2011年から翌年にかけ、このような施設が急増したのですが、近隣住民とのトラブル等も生じているそうで、一部社会問題にもなっています。
また、そもそも「出産目的」での米国入国は認められませんので、入国審査の際に妊婦と知られないよう、服装に注意するなど注意が必要とのことで、危険な綱渡りをしなければなりません。
そこまでしてでも、子に外国籍を取得させたいという「親心」も感じ取れるのですが。

「出産ツアー」の費用は7万元(約120万円)から13万元(約220万円)とのことですので、都市部の市民にとっては手の届かない水準ではありません。
また、海外で出産することで、一人っ子政策の適用を受けない(外国籍の子は制度の対象外になる)こともポイントの一つです。一人っ子政策は今年から緩和される予定ですが、海外での出産を支援する会社の担当者は、外国籍の魅力は大きく、一人っ子政策の変更によっても、海外での出産を目指す妊婦は大きくは減らないと予想しています。

若い中国人たちの海外移住や海外出産ブームは、中国国内の貧富の差、一人っ子政策、教育や環境の問題、社会福祉制度など様々な要因を背景としたものです。
もちろん、子供たちが中国で安心して生活でき、良い教育を受け、将来社会に貢献できることが一番なのですが、それを阻む障害も多く、子の幸せを願う親たちが海外移住あるいは海外出産という道を選んでいます。
中国国内の様々な問題が解消に向かい、親たちが安心して中国での出産と子育てを選択できるようになることを望みたいと思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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