第53回　春節後は求職のシーズン　【北京駐在員事務所から】

中国では、春節（旧正月）明け後に職場を移る人が多く、労働市場が最も流動化する時期になります。
多くの企業では、春節前に従業員に対し賞与を支給しますので、これを受け取った後に、より条件の良い職場に移るというわけです。工場や商店、飲食店などで働く人は、春節の帰省中に親戚や友人と条件の良い仕事について情報交換をし、時には前の勤め先に断りもなしに転職してしまうそうです。このため、雇用主にとっては、春節後に従業員が職場に戻ってくるか否かに戦々恐々となります。最近では、離職の防止のため、賞与の支給を春節休みの後にするところも増えているそうです。

ホワイトカラーの人々にとっても、春節の休みは転職を考える絶好の機会となっており、さらには夏に卒業を控えた大学生の就職活動がこの時期に本格化するため、各地の就職・転職フェアが大盛況と伝えられています。

北京でも、春節休み後の実質初の週末となったこの土曜日、日曜日に、大きなものだけでも4件の就職フェアが開催されました。
ところが、求人側企業と求職者の間に需給のミスマッチがあり、双方に不満の残る結果になったと報じられています。
北京の資産運用会社は、営業担当者100名の採用を目指し、高水準の処遇を用意してフェアに臨んだものの、履歴書を提出した求職者は50名にとどまり、さらにその半分は同社の採用基準（経験者）を満たさない大学生でした。
フェア参加企業の多くが、営業職の人員採用を予定しフェアに参加したものの、応募が少なく、優秀な人材は奪い合いの様相となったそうです。
また、教育研修会社の担当者は、「年俸100万元（約1,700万円）を用意し、営業部門の管理職を採用しようとしたが、応募は低調だった。営業職は人気がなく、内部管理部門等、我々のニーズに合わない職種を希望する求職者が多かった」と述べています。

求職者からも、募集職種が希望に合わないとの不満の声が聞かれています。北京に隣接する河北省の大学で通信工学を学んでいる4年生の学生は、「技術者の募集が少なくがっかり」と話していました。

中国の社会科学の最高研究機関である中国社会科学院の研究者は、求人内容と求職者の希望とのミスマッチは、長期的に拡大する恐れがあると警鐘を鳴らしています。
中国では、一人っ子政策の影響により、急速な少子高齢化が進んでおり、生産年齢人口は2012年をピークに減少に転じています。それにもかかわらず、大学の教育内容は人口増加、経済拡大の時代のままで、これが労働市場に需給のミスマッチをもたらしているというわけです。
このままでは、企業が求める人材が十分に供給されず、経済成長の阻害要因にもなりかねないと指摘されています。
企業には多様な雇用の創出が、また大学等高等教育機関には教育制度あるいは内容の時代に合わせた修正が求められますが、いずれも実現には時間を要しそうです。

日本でも、就職活動中の大学生が大企業志向を強めている等、需給のミスマッチが指摘されていますが、中国では学生の数がはるかに多く、また転職も盛んですので、労働市場のミスマッチは深刻な問題です。
特に、新卒者が良い職を得られないことは、社会全体にとっての損失です。雇用の創出や教育制度、内容の修正は容易なものではありませんが、関係者が知恵を絞り、状況が改善に向かうことを願いたく思います。

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コラム執筆：長野雅彦　マネックス証券株式会社　北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員　米国CFA協会認定証券アナリスト