第54回 住宅価格の上昇ペースが鈍化? 【北京駐在員事務所から】

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第54回 住宅価格の上昇ペースが鈍化? 【北京駐在員事務所から】

中国国家統計局が24日(月)に発表した1月の住宅価格動向(調査対象は主要70都市です)によりますと、62都市で昨年12月より価格が上昇するなど、値上がりが続いているものの、全体に上昇率は鈍化傾向にあり、昨年の初めから続いていた急激な上昇に歯止めがかかりつつあると見られています。

70都市の平均では、1月の上昇率は前月比0.49%でした。ちなみに前月12月は0.51%でした。
特に値上がりが目立っていた北京、上海、広州及び深圳の主要4都市でも、上昇率は鈍化しているとのことですが、それでも一年前からの上昇率を見ますと、北京が18.8%、上海が20.9%など、軒並み20%前後になっています。
これでは「先高感からの買い急ぎ」にブレーキをかけるのは難しいように思われます。

価格上昇が鈍化したことの背景として、国家統計局のアナリストは、各地方政府が資産運用目的での住宅保有に対する制限を強化する一方で、比較的安価な物件の供給を行ったことと、金融機関がローンの供与を厳格化したことの二点を挙げています。
特に、金融機関の融資姿勢は直近で大きく変化しており、審査により多くの日数を要するようになったほか、優遇金利やキャンペーンを相次いで中止、廃止しているそうで、住宅購入予定者からは、「どうして急にこんなに厳しくなったのか?」との不満の声が挙がっているそうです。

ローンを受けることが出来ず、売買が不成立となるケースが急増しているため、市場での取引件数も急減しています。もともと、1月から2月は、旧正月の連休もあり、不動産の売買が細る時期なのですが、調査会社のレポートは「今年の旧正月明けは例年と比べてもことのほか静かだった」と述べています。
証券会社のエコノミストも、「政府の住宅価格抑制への姿勢がようやく見えてきた。主要都市の住宅価格上昇は今年中に止まる」との分析を示しています。

また、住宅ローンに加え、金融機関が不動産会社向けの融資を絞るとの噂が流れたことから、上海株式市場では銀行株、不動産株が売られ、総合指数は昨日25日まで4日続落となりました。
主要金融機関は融資縮小を否定していますが、「資金繰りに窮したデベロッパーが破綻」や「物件の投げ売り」等の話も流れており、株式市場では当面神経質な展開が続きそうです。

ようやく住宅価格が鎮静化の気配となっていますが、昨年も売却益への課税強化や、2軒目以降の(資産運用目的での)保有に係るローンの条件厳格化等様々な対策が取られたにもかかわらず、上昇に歯止めがかからなかったため、市民の間では疑心暗鬼が広がっています。
北京でまずまず便利な立地の新築マンションは数千万円で、日本とあまり差が無いように思われます。賃金水準を考えると大変な買い物です。
分譲物件の価格に加え、賃貸物件の家賃の上昇も激しく、「一旗揚げよう」とのもくろみで地方から北京等の大都市に移った人々が、家賃負担に耐えられず出身地に戻る、あるいは地方都市に移るケースも増えているそうです。
「夢半ばにして挫折」でしょうか? あるいは「捲土重来」となるのでしょうか?
「持ち家と車が都市部の男性の結婚の条件」とされることのプレッシャーとあわせ、若者には本当に大変な状況となっています。

北京で住宅、不動産のニュースなどを見ていますと、土地の所有制度(都市部の土地は国有)と市場原理による物件の売買との間にギャップを感じざるを得ません。
専門家も、住宅価格抑制策の多くがローンの厳格化等需要を絞ろうとするものであり、同時に供給増を図らない限り価格上昇は止まらないと述べています。
既に多くの物件を保有する富裕層は、売買でさらなる富を得る一方、多くの市民は、住宅の購入について、ぎりぎりの判断を迫られています。
住宅価格の動向に、現在の中国が抱える矛盾、問題が集約されているようにも思われます。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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