第101回 2月、なぜ日経平均の大幅急落にもドル円相場は底堅かったのか 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第101回 2月、なぜ日経平均の大幅急落にもドル円相場は底堅かったのか 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

2014年1月2日、為替市場今年最初の取引日にドル/円相場は105.45円のドル高円安の高値を付けてから下落基調が続いています。この「下落基調」は日経平均も全く同じで、アベノミクス、日銀の異次元緩和を材料に世界中の投資家のHOTなテーマとなってきた「日本株買い」「円売りドル買い」が冷めてしまったように見えます。年明けの1月初旬は単純に利益確定による調整だったのかもしれませんが、ダボス会議で安倍首相がジョージ・ソロスと会談した翌日から、ソロスファンドとその系列傘下のファンド勢が一斉に日本株売りに動いたという指摘も。日本株、アジア株に投資してパフォーマンスを上げてきたとされるJOHOキャピタルなど幾つかのヘッジファンドが閉鎖(日本株投資がリスクだとして投資継続しないと判断した)したことも話題となりました。

安倍首相が日中関係を第一次世界大戦前夜になぞらえたことで、日本株投資には地政学リスクが伴うと捉えられたとも解説されています。同時に中国の要人もダボス会議で日本に対して強硬な発言を繰り返したことも嫌気されているようで、人民元からも資金が流出しています。足元の元安には規制や変動幅拡大への準備など、多要因も様々に絡んでいますが、地政学リスクと捉えた外資の撤退なども一因とされています。
こうした流れを受けて、1月下旬から2月にかけて海外勢は日本株売り、円の買戻しに出てきました。昨年、外国人投資家は日本株を現物株と先物合わせ約16兆円買い越していましたが、今年に入り2月第1週までに約2.8兆円を売り越しています。また投機筋の通貨先物市場でも円売りポジション(ドル高円安のポジション)は、昨年12月24日の14万3,800枚をピークとして、今年24日までに7万6,800枚まで減少しました。(足元は若干ながら増加傾向にあり、11日までの週は7万9,700枚に微増)

ところが、日経平均は高値から2月の安値まで14.2%もの下落となっているのですが、ドル/円相場は年初高値から2月安値までわずか4.6%の下落にとどまっています。海外の投資家は日本株を買う際、日本株は円ですから、ドルを円に換えて(円を買って)株を購入しますが、それだけでは日本株が上昇したとしても、円安となった時に為替の分の損失が出てしまうので、同時にヘッジとして為替市場で円売りのポジションを持ちます。つまり、保有していた日本株を売るときはそのヘッジした円売りポジションも同時に解消しますので、考え方としては、同じようにドル円相場も動くはずです。しかし、実際にはドル円相場は下値が固く、日経平均ほどには下落しませんでした。なぜでしょう?!

答えは日本の1月の貿易収支。なんと日本の1月の貿易収支は2兆7900億円の赤字となっていました。赤字額が初めて2兆円台を突破しただけでなく、なんと3兆円に迫る勢いにまで拡大していたのです。これは1979年の統計開始以来最大の赤字。前月比でも44.5%増です。輸出額が5兆2528億円だったのに対し、輸入額がなんと8兆428億円にものぼっていました。円安による期待が大きい輸出が停滞する一方、鉱物性燃料輸入は高止まりするドル円相場で負担増となっていることが基礎的要因として挙げられるのですが、加えて4月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要で輸入が大幅増加したとみられています。要するに、消費税増税となる前に海外からの輸入品は前倒しで購入して在庫として持っておこうという動きが拡大したということ。エネルギー輸入も前倒し備蓄しようという動きが大きく数字に表れたということです。

海外の物を購入するときは、円では買えませんので、ドルやユーロに替えてから購入しますね。輸入が増えていたということは、円を売り外貨を買う動きが増えていたということですから、これが、ドル/円の上昇、ユーロ/円の上昇要因となるのです。外国為替市場で海外勢がせっせと円買いに動いていた時に、本邦実需が8兆円という膨大な円売りをしていた、ということがドル/円相場では下値が固く、日経平均ほどには下落しなかった背景にあるものと思われます。

増税前の在庫確保、備蓄のための輸入増の傾向は2~3月にも継続するか否かははわかりませんが、2月のドル/円相場の動きを見ると2月にも輸入がかなり増えていたのではないか、と推察できます。実需による輸入が輸出勢が利益送金にのために行う円買いによる円高圧力を凌駕する構造となってしまった日本。黒字であった時代とは為替市場における基礎的要因が全く変わってしまいました。ということで、短期的に中国やロシア、ウクライナなどの地政学リスクがドル/円相場を下落させる円高となる瞬間もあるかとは思いますが、実需による円売りドル買いのボリュームが膨大であるため、大きなトレンドは円安ドル高でしょう。2014年の基本戦略は下がったら買いのチャンスと思え、ということになります。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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