第55回 大気汚染の影響があちこちに 【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第55回 大気汚染の影響があちこちに 【北京駐在員事務所から】

先々週から先週にかけ、北京ほか中国北部では重度の大気汚染がほぼ一週間続き、解消までにかつてないほどの時間を要しました。
微小粒子状物質PM2.5の濃度は、昨年1月に日本で大きく報道された時ほどではなかったのですが、汚染が長期間に渡ったため、新聞、テレビは関連の話題等を含め、連日大きく取り上げていました。

北京市民のマスク装着率は低く、危機感が感じられないのですが、ここまで来ますとさすがに健康への影響が無視できないということで、様々な調査、研究の結果が報じられています。
北京にある癌研究機関の専門家は、肺癌のうち、特に大気汚染物質との関連性が高いと見られる「腺癌」の発生件数が増加していると述べています。
肺癌全体を見ても、北京市の人口10万人当たりの発生件数が、男性では2002年の49.1件から2010年には75.2件に、また女性では29.7件から45.9件にそれぞれ増加しています。
男性の方が多いのは、喫煙の影響と思われますが、この件数増加に大気汚染が影響していることは否定できません。
また、別の専門家は、適切な対策が取られない場合、大気汚染の健康への影響は2002年から翌年にかけ大流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)よりも遥かに深刻なものになると警告しているほか、肺癌や呼吸器疾患にとどまらず、早産や新生児の体重減少をもたらすと指摘しています。

この大気汚染は、疾病の発生だけでなく、様々なところに影響をもたらしています。
北京では空気清浄機が品薄状態で、販売会社の営業担当者は、特に高齢者、子供や妊婦のいる家庭からの購入希望が多く寄せられているものの、供給が追い付かず、一週間のうち2日程度は在庫が払底し販売できない状況と述べています。
屋外で仕事をする人々にとっても、健康への影響は気になるとことです。道路の清掃作業員は、一応マスクは支給されるものの、呼吸が苦しくなるので作業中は使用していないとし、健康に悪いのは分かっているが他に仕事が無いのでどうしようもないと話しています。

病院の外来受診者数も、先週は前週比で20%程度増加しており、特にぜんそくと肺気腫の患者は50%増だそうです。
また、学校や幼稚園への影響も深刻で、屋外での運動の休止に加え、北京の日本人学校では、体育館での運動も一時中止したと報じられていました。
友人が、こちらの日系の幼稚園に教諭として勤務しているのですが、外遊びが出来ず園児がかわいそうと話しています。

個人で出来る対策としては、マスクを着用する、空気清浄機を使う、さらには外出や運動を控える等になるのですが、究極の対策として、「北京脱出」を考える人々も増えているそうです。
新聞記事では、27歳の男性が、「北京に来て二年になるが、キャリアも家も捨てて南部か、あるいは出身地の中部重慶市に移ろうと思う。少なくともそこに行けば青空がある」と述べていました。
大気汚染の影響か否かは不明ですが、日系企業でも駐在員を帰任させる、あるいは北京のオフィスを閉鎖し、上海等他都市の拠点に集約する等の動きが増えています。私も今月はこちらの友人たちの送別会に頻繁に出席することになりそうです。淋しい限りです。

繰り返し報じられている大気汚染問題ですが、各省や市の対応は鈍く、北京市と隣の河北省との間では、どちらがより多く汚染物質を発生させているかについての責任の押し付け合いが行われている始末です。
自動車ユーザ、工場関係者や建設業者の間でも、互いに責任を転嫁するような議論がされています。
地球温暖化(温室効果ガスの排出)を巡る先進国と発展途上国との対立と同様の構図が中国国内で起きており、発展が遅れている内陸部の各省は、「対策が必要なことは理解するが、まずその前に自分たちにも儲けさせろ」との姿勢です。
これでは状況は容易に変わりません。
習近平政権のリーダーシップが求められるところです。

問題の解決には長時間を要すると思われますので、マスクや空気清浄機で出来る限りの対処を図っています。
今のところ体調には問題ありませんが、今後も十分注意したく思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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