第57回 海外不動産への投資がさらに拡大 【北京駐在員事務所から】

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第57回 海外不動産への投資がさらに拡大 【北京駐在員事務所から】

中国の大都市で不動産、特に分譲マンションの価格が急騰しているとのニュースは、もはや日常の一コマになりつつあります。北京市など各主要都市の政府は、売却益への課税強化や複数の物件の所有の制限など様々な対策を講じ、投資目的での(自らの居住を目的としない)不動産取得の抑制を図っていますが、なかなか効果を挙げていません。

国内不動産への投資は、政策による制約が強まっていることに加え、価格上昇で投資利回りが低下していること、さらには土地(底地)の所有権が国にあり政治面、制度面でのリスクが高いことなどから、近年、海外の不動産への投資が一段と注目を集めています。
新聞記事は、需要の高まりを受け、中国の開発業者が海外案件への投資を拡大し、中国で物件を販売する事例が増えていると報じています。

中国の大手不動産開発会社上海緑地集団と万科集団は、今年に入り相次いで海外開発案件への投資を拡大すると発表しました。二社合計の投資額は50億元(約830億円)以上と伝えられています。
上海緑地集団は、海外案件への関与に特に積極的で、同社の張会長は、今年はカナダ、フランス及びシンガポールで、3件から5件のプロジェクトに参画し、海外物件の売上高を昨年2013年の30億元(約500億円)から今年は200億元(約3,300億円)に、さらに来年は300億元(約5,000億円)に伸ばすと述べていました。

中国人にとって、豪邸、特に書画や骨董、サンゴやヒスイの置物で飾られた客間は富と成功の象徴です。このため、不動産投資への関心も高く、英国の不動産サービス会社Knight Frankが全世界の超富裕層(家計の保有純資産(居住用の住宅以外)が3,000万ドル(約30億円)以上)を対象に調査を行ったところ、1年以内に新たに住宅を購入する計画がある人の割合は、世界全体の22%に対し、アジアが25%、そして中国が31%でした。中国の富裕層が不動産投資に積極的であることが分かります。
また、最近の傾向として、富裕層に加え、より所得水準の低い層でも海外不動産への関心が高まっており、英国の不動産会社Barrattがロンドンで手掛けた開発案件では、中国人の購入者のほとんどが年間家計所得50万元(約830万円)程度でした。うち6割が純投資目的で、4割が子女の留学や将来の移民を睨んでの購入であったそうです。

上海緑地集団の張会長は、海外不動産投資の顧客層が拡大しており、その多くは十分な知識、情報を有しないことから、中国国内で実績を挙げ、ブランドを確立している不動産会社にとってはチャンスが大きいと述べています。

高まる不動産投資熱は、投資先の更なる広がりももたらしています。以前は香港、東京、ニューヨーク、シカゴ、ロンドンなど代表的な大都市がターゲットでしたが、最近ではより高い利回りが得られるとのことで、マンチェスター、ブリストル(以上英国)、ベルリン、フランクフルト(以上ドイツ)及びリヨン(フランス)など欧州の都市や、クアラルンプール(マレーシア)が注目されているそうです。
中でもマレーシアは、昨年の中国人(法人及び個人)による不動産購入額で、香港、シンガポールやオーストラリアを上回ったとのことで、中国の開発業者の進出も盛んになっています。

昔話になってしまいますが、日本でもバブル期から1990年代前半までは、国内の住宅価格の高騰もあり、「上海の分譲マンション」などアジアの各都市の不動産への投資が盛んに宣伝され、相当数の物件が販売されました。
その後、価格の下落、あるいは法令上あるいは権利関係のトラブル等により、損失を被った購入者も多かったようです。
現在の中国の海外不動産投資ブームに、当時の日本の状況を重ねてみますと、バブルの崩壊が見通せてしまいそうでちょっと心配になります。

中国人の海外不動産への強い選好は、国内の制度問題や子女の留学、さらには移民等を念頭に置いたものですので、今後も拡大を続けるものと思われます。
「東京でマンションを借りたら大家さんは中国人だった」といったケースも、これからどんどん増えてくるかもしれません。
様々な問題を抱えつつも、世界の中で躍進を続ける現在の中国を象徴するニュースのように思われます。


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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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