第106回 市場を動かすGPIF、本当に市場の期待に応えられるのか? 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第106回 市場を動かすGPIF、本当に市場の期待に応えられるのか? 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

GPIFが日本株運用の見直し~と言った報道が、日本株市場へのサポートとなっています。先週も4日金曜に「GPIFがJREITでの投資やJPX日経インデックス400などの新たなベンチマークの採用に加え、アクティブ運用の一部ファンドに「実績連動報酬」を導入する」というニュースが話題となり、株式相場の下支えとなりました。
アベノミクス相場がスタートしてからGPIFというキーワードが飛び出す度に日本株高、円安となる値動きが繰り返されていますが、この魔法のキーワードの効力はいつまで続くのでしょうか。

GPIFとは年金積立金管理運用独立行政法人。128兆6000億円もの運用資産を持つ世界最大の公的部門の投資家であり、この規模は中東の政府系ファンドよりも巨額です。これまではリスクを嫌う官僚によって運営されていたためにGPIFの資産の3分の2が債券で運用されており、そのほとんどが日本国内の債券に偏っていました。国内株式運用比率はわずか12%程度。770兆円あまりが国内債券で運用され、日本株には15兆円程度が投資されているということですが、過去12年間で年率1.54%のリターンだそうです。リターンも小さいですがリスクも少ないという運用スタイルですね。昨年来から、このGPIFの128兆円をもっと積極的に運用しようではないか、という議論が高まっているのです。

もっともこの議論が注目されたのが、昨年11月に話題となった「国内外の株式比率を現在の32%程度から50%に引き上げることが望ましい」としたGPIF伊藤座長の私案です。現在15%程度運用されている外国株式の比率が25%へ引き上げられる期待が高まったことと、外国債権比率も引き上げるとする内容であったことが、為替市場では円安期待に繋がり、11月以降年末に向けては日本株高に加えて大きな円安進行となりました。実際にGPIFは、ポートフォリオの中で日本国債のウエートを2013年3月の62%から2013年末に55%まで減らしています。減少分のおよそ8兆円は日本株と外国株に投資したとされており、昨年の日本株の上昇、円安進行の背景にはGPIFマネーのポートフォリオ変更が大きく影響していたことが確認できます。

では今後、GPIFの動向がマーケットの支援材料となり続けるでしょうか。
一つの懸念は、GPIFと厚労省がポートフォリオ見直しの構想に抵抗していること。GPIFの三谷理事長は2月、株式市場がリスク回避の渦に巻き込まれ下落していた最中に「GPIFの目的は、株式市場を押し上げることではなく、国民の資金を安全かつ効率的な方法で運用することだ」と不満を述べ、これがさらなる株式の下落を招くということがありました。世界最大の基金を運用する厚労省がその威光を手放すのを嫌がっているとの指摘もあります。

少子高齢化が進む中ですでにGPIFは給付金支出超の状況となっており、毎年数兆円の積立金が取り崩されています。現状のような低リスク・低リターンの手法に甘んじている余裕などないはずですが、こうした抵抗が表に出てくることが、日本株、そしてドル/円市場の下落リスクに繋がるでしょう。実はまだ、伊藤座長の私案が出された11月以降、具体的な変更内容は明らかにされていません。流れ的には伊藤座長案に基づいた水準の変更に落ち着くとみられますが、まだはっきりしていないことが懸念材料となっています。

そしてもうひとつの懐疑的材料が、債券市場での大きな買い手であったGPIFが国内債券を継続して売ることが、債券価格に影響を及ぼすとの懸念です。日本の公的債務はGDPの240%近くに上ることから、日本の債券市場には日本国債の暴落予想が根強く、GPIFのポートフォリオ変更に伴う国債の売却とはいえ、短期的に大規模な国債を売却することは難しいのではないか、という指摘があるのです。となると、実際に日本株を購入する資金を調達する国債売却のペースはかなり緩慢なものとなり、日本株上昇のインパクトとしてはそれほど大きくはないのではないか。これもまた、はっきりとした変更概要とスケジュールが示されていないために出てきている懸念ですが、まだ、市場はこうした懸念よりも「GPIF]というキーワードにポジティブに反応する地合いであることから、期待のほうが遥かに大きいとみられます。このことが、もうひとつの最大の懸念であり、仮に現実が市場の期待に届かなかった場合の失望が日本株市場、ドル/円市場の及ぼす影響が気がかり...。

今後、GPIFの運用方針の概要が出てくるタイミングは4月下旬の運用委員の交代時期あたりではないか、との予測がありますが、いつごろ全貌が明らかになるのかは定かではありません。市場の思惑より消極的な内容となった場合の失望には注意が必要かと思われます。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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