第60回 白酒メーカーへの逆風が強まる【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第60回 白酒メーカーへの逆風が強まる【北京駐在員事務所から】

日本で有名な中国の酒と言えば、紹興酒あるいは老酒といった「黄酒」、あるいはビール(「青島」など)が挙げられます。黄酒は、米などを原料とする醸造酒で、見た目は大きく異なるものの、日本酒に近い種類になります。中国中部(上海市周辺など)で良く飲まれるお酒ですが、北京ではあまり人気がありません。

中国で広く愛飲されているお酒は、黄酒を蒸留して作る「白酒」(バイジョウ)です。製法としては日本の焼酎に近いですが、アルコール度数が高く、ウォッカ、ジンやテキーラに似たお酒です。
中国の宴会では、これをストレートで、ショットグラスのような杯で一気飲みするのが乾杯のスタイルです。これを何度も繰り返しますので、お酒に弱い日本人が中国の宴会でさんざんな目に遭ったという話も良く耳にします。

中国の宴会、特に政府機関などでの宴会に白酒は欠かせないものですが、昨年、習近平政権が発足し、公費濫用の禁止令が出されたことを契機に、宴会での白酒の消費が伸び悩み、メーカー各社の業績が悪化しているそうです。

昨年、2013年の中国全体の白酒の売上高は、前年比11.2%増の5,020億元(約8.3兆円)で、2012年の前年比伸び率26.8%を大きく下回りました。
売上高は2ケタ増となったものの、メーカー各社の利益は全体で前年比2%減となったそうです。
比較が難しいですが、日本の清酒と焼酎の市場規模がいずれも3,000億円程度とのことですので、売上8兆円の中国、スケールが違うという感じではあります。

白酒には超高級品から廉価なものまで、様々なブランド、製品があるのですが、政府の公費濫用禁止令は、特に高級酒メーカーを直撃しています。
日本でも有名な「茅台酒」のメーカーである貴州茅台集団の昨年の純利益は前年比13%増で、前年2012年の51%増益から急ブレーキがかかりました。
また、茅台酒と並ぶ高級ブランド「五粮液」のメーカーはさらに厳しく、昨年の純利益は前年比18%の減益でした。
業界団体の関係者は、ここ数年の増産と値上げにより、メーカー各社が大きく利益を伸ばしていたことの反動と、一部メーカーの製品に化学物質が混入と大きく報じられたことにより、2013年は厳しい一年になったと述べています。

白酒の市場は、ここ10年ほど急拡大を遂げ、メーカー各社は永くわが世の春を謳歌してきました。
2003年から2013年までの間に、売上規模は8倍になり、各社の利益は年率37%の大幅増を記録しています。
2008年のリーマンショックの影響が懸念されたものの、直後に政府が実施した4兆元(約66兆円)に上る景気刺激策がさらなる市場拡大をもたらしたそうです。そろそろ「おごれる者久しからず」となるのでしょうか?

政府の浪費自粛以外にも、白酒には逆風要因があります。
企業経営者やサラリーマン層、とりわけ若い世代には、赤ワインの人気がうなぎ昇りで、中華料理店でも集客のためワインの品揃えを競っています。
また、白酒の市場拡大と価格高騰により、偽造品が横行していることも深刻な問題です。
茅台酒の場合、市場での流通量が生産量の数倍にも達しているそうで、消費意欲に水を差しています。

主要メーカーや業界団体では、需要喚起のための値下げや、中国文化の継承という観点からの白酒の宣伝に努め、需要を喚起したいとしていますが、輸入品、国産品の双方でワインの攻勢も強力で、先行きは予断を許しません。業界には適切な価格設定と偽造品の撲滅が求められます。

日本でも、経済の発展過程で酒類の消費も多様化し、ビール、ウィスキー等の洋酒、さらにはワインやカクテルが消費者の間に浸透し、現在に至っています。
中国でも、方向としては今後洋酒の需要がさらに拡大するのでしょうが、日本での清酒や焼酎と同様に、中国酒と洋酒の共存が図られるよう、願いたいと思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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