第61回　大学卒業生の就職先はどのような企業が人気？ 【北京駐在員事務所から】

英国の人事コンサルティング会社Universumが、中国の大学卒業予定者を対象に、就職先を選ぶ上で重要と考えるポイント等についてアンケート調査を行いました。
対象者は中国の大学103校を今年6月に卒業する予定の51,000名です。
同社は世界各国で同様の調査を行っています。

中国の今年の大学卒業生（見込）は727万人で、過去最多となります。これに海外留学からの帰国組も加わりますので、就職戦線は激烈です。
公務員や国営企業の従業員が一番人気ですが、最近ではＩＴ系の大手企業も人気の就職先となっています。

まず、就職先の都市としては、上海、北京、広州（南部広東省）がトップ3となりました。
昨年の調査では北京、上海、広州の順でしたので、北京と上海が逆転しました。上海は中国経済の中心地で、昨年10月に開設された自由貿易試験区のような先進的な施策も多く取られており、就職機会が多いと期待されています。
一方、北京は急激な人口流入で交通渋滞等問題が多発していることから、上海に比べ、戸籍（市民としての認定）が得られにくくなっており、人気を落とす理由になっています。
住宅費（家賃）の高騰と大気汚染も、北京の人気低下につながっています。
次に収入については、学生が希望する初任給（月額）が平均で6,564元（約108,000円）となり、昨年の調査から2.9％下落しました。経済成長の鈍化と、大学卒業生の増加による競争激化が背景にあるものと思われます。

学生が雇用主に望む点については、

(1) 将来のキャリア形成についての高い可能性

(2) 高水準の報酬

(3) 将来高い報酬を得られる可能性

(4) 明確な昇進の可能性、見通し

(5) 専門性を得られる教育訓練

が上位となりました。
Universumの担当者は、他の多くの国々では、企業風土や文化、あるいは社内での人間関係への関心が高いのに対し、中国の学生は報酬や自身のキャリア形成を重視していることが特徴と述べています。

実際、アンケートでは、最初の就職先に何年程度勤めるつもりかとの質問に、58％の学生が「2～3年」と回答しています。「5年以上」と回答した学生は25％でした。
早期に自身の能力を磨き、より良いポジションを求めて転職する、あるいは独立することを考えている学生が多く、実際日本よりは遥かに人材の流動性が高いようです。

学生の仕事人生での目標については、

(1) 仕事と私生活の両立

(2) 仕事の安定性

(3) 自律性、独立性

が上位となりました。社会に出ても激烈な競争にさらされる中国の若者は、とにかく若いうちに努力してスキルや専門性を身につけ、周囲の環境に左右されない立場を確立したいとの上昇意欲が強いように思われます。
長く勤めるつもりはないが、教育訓練はして欲しいというのですから、ちょっと虫のいい話とも思えます。雇用する企業の側から見ますと、数年程度で転職する可能性がある従業員を、どの程度育て、鍛えるべきか、悩ましいところではあります。

北京などの大都市では、大学を卒業したものの、良い就職先を得られず、肉体労働等低賃金にあえぐ若者の存在が問題となっています。
生活費を節約するため、狭い住宅で大勢が共同生活をすることから、「蟻族」と言われています。
大都市のホワイトカラーに学生の人気が集中していることも就職難の一つの理由ですが、少しでも多くの学生が、能力を発揮し成長できる職を得られるよう望みたいと思います。

日本では来春卒業予定の学生の就職活動が最盛期ですが、日本の状況と重なる面と、違うなと思わせられる面が交錯するニュースでした。

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コラム執筆：長野雅彦　マネックス証券株式会社　北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員　米国CFA協会認定証券アナリスト