第62回 中国全土に広がる土壌汚染問題【北京駐在員事務所から】

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第62回 中国全土に広がる土壌汚染問題【北京駐在員事務所から】

中国の環境保護部と国土資源部(日本の環境省と国土交通省に相当します)が、17(木)に全国の土壌汚染の状況についての調査結果を公表しました。
この調査は、2005年4月から昨年12月まで、9年近くの歳月をかけ行われ、対象地点は10万ヶ所に上りました。耕作可能地については全てを対象とし、山林、草原、建造物建設用地及び未利用地も一部対象とした、極めて大規模な調査となっています。
調査対象の総面積は630万平方キロメートルで、国土全体の65%に達します。また、測定対象となった汚染物質は、重金属を中心とした無機物13種類と、有機化学物質3種類です。

調査の結果、測定地点全体の16.1%で、国の基準を上回る汚染物質が検出されました。
さらに耕作可能地ではこれが19.4%にまで上昇しています。
基準を上回る汚染物質が検出された測定地点のうち、約70%は「軽微な汚染(基準値の2倍以下)」でしたが、7%の測定地点では、基準値の5倍を超える「重度の汚染」となりました。

耕作地の中で、特に汚染の酷い地域は、東部沿岸部の工業地帯に近いエリアに集中しています。特に、重金属による汚染は、南部(広東省など)で深刻だそうです。

環境保護部は、1970年代にも同様の調査を行ったのですが、当時の結果と比較しますと、特にカドミウム(高度成長時代の日本でも公害の原因となった環境汚染物質)の値が東部沿岸部で50%程度、西部や北部でも10%から40%上昇しています。

今回の調査に参加した専門家は、南西部など、鉱物資源が豊富な地域では、土壌に多くの金属類が含まれているため、測定結果が基準値を上回った地点の全てで土壌汚染が発生している訳ではないと指摘しています。
しかしながら、多くの測定地点では工業生産に伴う廃棄物等が汚染源になっているものと見られ、また発生源を問わず、汚染物質を高濃度で含む土壌は、農産品の質を低下させ、さらには河川や地下水等の水質汚染をもたらします。

加えて、土壌汚染がやっかいな問題であることの理由として、大気汚染と異なり汚染の状況が目に見えないこと、また広いエリアの中で、汚染物質が均等に分布している訳でなく、特定の場所に集中している可能性があることが挙げられます。
除染をしようにも、ターゲットを絞り込むことが難しく、一方でエリアの全てに網をかけることも、費用対効果の面で現実的ではありません。
対象地については、耕作を放棄する、あるいは汚染物質を吸収する性質を持つ植物を植え、時間をかけて除染する等が、実際に取り得る対策だそうです。

この土壌汚染の問題、このまま放置すれば飲み水や農産品を通じて人々の健康に影響を与えることになりますし、汚染地での耕作を放棄すれば、農業生産高が減少し、食糧確保の問題が発生します。
もし後者となれば、穀物価格等の高騰を呼び、日本人の生活にも影響することになりかねません。
中国での環境汚染と言えば、北京など都市部の大気汚染がクローズアップされがちですが、土壌と水の汚染は、対象地域が広く、かつ対策が困難で多額のコストを伴うという点で、実は遥かに深刻な問題とも思えます。
大気汚染対策に加え、こちらの分野でも、日本からの技術協力等支援が出来ないものかと考えさせられた次第です。


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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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