第63回　中国の就職活動も大変【北京駐在員事務所から】

4月16日付の本コラムで、今年大学を卒業予定の学生が、どのような企業への就職を希望しているのかについて、ご報告申し上げました。
公務員や国営企業従業員のほか、通信、ＩＴ系の大企業も人気で、勤務地としては上海、北京、広州（広東省）の大都市が人気上位となっています。

しかしながら、今年6月に卒業予定の大学生の数は約727万人で、昨年の699万人を上回る過去最多となっています。希望通りの職に就ける学生は少なく、多くは様々な道を模索し、職を得ている状況です。

大手就職支援サイトの「招聘.com」は、今年卒業予定の大学生、大学院生約5万人を対象に、就職に関する希望あるいは予定についてのアンケート調査を行いました。同社は毎年同様の調査を実施しています。
調査結果からは、近年の学生の選好に変化が生じていることがうかがえます。大きな特徴としては、大学院への進学希望者が減少し、学部卒業後に就職を予定する学生が増加していることが挙げられます。
アンケート調査で、学部卒業後に就職予定と回答した学生は2012年が68％、2013年が73％、2014年が76％と年々増加しています。
専門家は、この背景として、2008年のリーマンショック後に求人が減少し、就職を先送りするため大学院に進学する学生が増えたのに対し、近年新卒者の求人が回復したことから、学部卒業後の就職を希望する学生が増えたと分析しています。
また、近年、大学院修士の学位取得者よりも、学部卒業後数年間の実務経験を積んだ者を好んで採用する企業が増えているそうです。このことも、大学院進学よりも就職と考える学生の増加につながっています。

また、同じく招聘.comが行った、主要都市別に、一人の求人に対し何名の学生が応募したかを集計する人気ランキングによると、上海や北京などの大都市に次ぐ規模の都市で学生の応募が増えています。
一位は上海に隣接する江蘇省の蘇州で、一人の求人に対し90名の学生が応募しました。
二位は広州、三位は深圳（ともに広東省）で代表的な大都市ですが、四位に西安（陝西省）、五位に南京（江蘇省）が続いています。
招聘.comの担当者は、蘇州の人気について、同市が長江（揚子江）デルタ地帯に位置し、上海にも近いことから、近年多くのハイテクあるいは医療関係の企業が拠点を構えており、就職機会が増えていることを理由に挙げています。
また、西安については、中国政府が力を入れている西部開発の拠点として企業の集積が進んでおり、また大学や研究機関も多いことから、就職希望の学生が集まっています。
これらの都市では、住居費等の生活費が大都市に比べ安く済み、また生活環境も優れており、これも学生の人気を集める要因になっていると指摘されています。

招聘.comの担当者は、このような学生の行動を「合理的な選択」と評価しており、卒業生の増加でポストの奪い合いが激化する中、ハイテクあるいは物流産業の集積が進んでいる他の地方都市も選択肢として考えるべきと指摘しています。
同社の調査では、一人の求人に対する応募者数は平均で56名となったそうです。大変な競争の中、学生も例えば故郷へのＵターン、あるいは全く新しい土地での出発を考える必要に迫られています。

本年2月末の時点で、就職希望の学生のうち、60％が一つあるいはそれ以上の内定を得ているそうです。現在はこの割合がどこまで上がっているでしょうか？
日本でも、来春卒業予定の学生の就職活動が真っ盛りです。私の知るこちらで勉強中の留学生も面接のため頻繁に帰国しています。費用も大変なことと想像しています。
全ての学生が希望通りの職に就くことは難しいかもしれませんが、それぞれが自らの努力で道を切り拓き、将来成功を得られるよう、祈りたいと思います。

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コラム執筆：長野雅彦　マネックス証券株式会社　北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員　米国CFA協会認定証券アナリスト