第28回 相場のテーマを読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第28回 相場のテーマを読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。ついに6月を迎えました。ここ数年間で定着しつつあった「セルインメイ」(5月は売り!)はなんとか陽線となりましたが、やはりパフォーマンスとしては一進一退という停滞感の強い推移であったように思います。消費税増税の反動の見極め、地政学リスクなどが相場の重石となりました。個人的には、景気回復が謳われるにもかかわらず、米国の金利が上がってこない点が非常に気に懸っています。市場はどういった未来を織り込んできているのか。非常に興味深いところです。そして、6月には政府の新成長戦略が策定されます。昨年はアベノミクス第三の矢への失望が株式市場を襲いましたが、今回はどうでしょう。要注目となります。

さて、今回取り上げるテーマは「農業」です。世界人口の拡大が続く中、食糧を生産する農業はそもそも非常に重要かつ成長の期待される分野と言ってよいと思います。拙著でも、将来の注目度が高い業種として農業を挙げました。農業の株式会社化解禁といった規制緩和や減反政策廃止への流れなど、そのビジネスチャンスは着実に広がってきているように思えます。実際、これを受け、大規模化などを旗印に鳴り物入りで進出した大企業も多々ありました。しかし、これまでのところ大規模農業に新規参入して成功した企業はほとんどありません。土壌管理や作物の育成に時間がかかるうえ、在庫商売ができないという特性から事業リスクが予想以上であったというのがその主たる要因です。日本の農業は大規模化が不可欠という理論はもはや常識とも言えるほど浸透していますが、現実はそう簡単ではなかったという典型例です。現在はむしろ数年単位を覚悟して小規模ながらも着実に実績を積んでいく方式での企業参入が多いというのが実態かもしれません。

そういった中、農業に新たな風が吹く可能性が出てきました。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)です。現在は参加国間の利害調整が難航しており、なかなか決着のつかない状況にありますが、ここにきて年内にも妥結へ、という雰囲気が増してきたように感じられます。まだ先行きは不透明であり、決着への予想はつかないものの、TPPの合意が日本の農業を変えていく可能性は小さくないと考えます。TPPや農業が政府の策定する新成長戦略にどれだけ織り込まれるかは不明ですが、日本の将来を考えるうえで農業の競争力強化は避けて通れないことのように思われます。

これまでのところ、TPPに関しての議論は、「安価な輸入品によって日本の農業が打撃を受ける」という点への懸念がほとんどです。もちろん、これは大きな懸念材料ですが、物事には必ず両面があります。前向きに捉えれば、極めて質の高い日本の農業を拡販するビジネスチャンスと考えることも可能なはずです。実際、日本のお米の安全性や美味しさは海外からも高く評価されており、既にブランドとなっていることも重要な事実です。従来型の発想を飛び越えることができれば、世界に羽ばたく農業を確立することは決して夢物語ではないと言えるでしょう。これまで様々なネックがビジネスとしての農業の重石となってきましたが、TPPを機にゲームのルールが変わってくることになるかもしれません。例えば、これまで小規模でもこつこつと結果を出してきた企業が、今後数年間でビジネスチャンスを捉えて大きく発展するケースが出てくる可能性は小さくないと考えます。そういった企業が株式を公開していれば、新しいビジネスモデルとして相場の柱になっていくかもしれません。これまであったようなバイオやゲームといった業種と同様に、です。そして、そういった企業の出現を、日本の農業を発展させるためにも、強く強く期待しています。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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