マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
2014年入りから買い戻され、昨年の大幅下落の4割ほどの回復となっていた豪ドルが、このところ方向感を失っています。2013年、RBAオーストラリア準備銀行のスティーブンス総裁は「豪ドルは不快なほど高い・豪ドルが下落する必要がある」と繰り返し発言、この口先介入とも受け止められる中銀総裁の発言を嫌気して豪ドルは1.05ドル台から0.86ドル台までの大きな下落トレンドを形成していました。ところが、今年に入って、RBA議事録から「不快なほど高い」というコメントが削除されたことで、マーケットは一転豪ドル買いに転じます。豪ドルは4月の0.94ドル台まで大きな上昇トレンドを形成したのですが、その後、レンジ入り。今後の方向が見えにくくなっています。
4月以降の豪ドル失速の背景には、4月のRBA理事会の声明文に「豪ドルが上昇してしまったので、豪ドル安による景気支援効果が減殺されてしまっている」という表現が盛り込まれたことが影響しているようです。これは再び豪ドルが高くなってしまったことへの牽制とみられます。やはりマーケットは中央銀行には逆らうな、のスタンスをとるものですね。このやんわりとした豪ドル高牽制を受けて過剰な豪ドル買いが再び止まったと見られます。勿論、マーケットは中央銀行のスタンスだけを材料に動くものではありません。年初からの豪ドル堅調の背景には、米国の量的緩和縮小にも関わらず上昇しない米10年債金利を受けての米ドル安も一因となっています。豪ドルやNZドルなど、高金利通貨に資金をシフトさせたものと思われます。
そもそも、何故豪州は通貨高が困るのでしょう。豪州の最大の貿易相手国である中国は毎年10%ものペースで成長してきました。豪州は鉄鉱石などの資源を中国に輸出することで、金融危機後も底堅く推移してきましたが、その中国の成長率も足元では7%台にまで鈍化。また、資源価格も下落傾向にあり、資源セクターが縮小しつつあるのです。一方、リーマンショック前には7.25%あった政策金利は2013年8月には2.5%にまで引き下げられ、歴史的な低金利となっていることから住宅や商業施設の建設が持ち直しています。豪州は資源輸出主導の経済から内需主導に変化する過渡期にあるのです。
先週、豪州の14年度(14年7月~15年6月)の設備投資計画が発表されました。第1四半期の設備投資は前期比▲4.2%と予想の▲1.5%を下回ったのですが、前回の▲5.2%からは改善しています。より注目度が高かったのが2014-15年度(7~6月)の設備投資計画。1371億豪ドルと、前回2月調査の1249億豪ドルから大きく上方修正、非鉱業セクター分も571億豪ドルと前回の507億豪ドルから上方修正されています。急減が懸念されていた鉱業セクター分も800億豪ドルと、前回742億豪ドルから上方修正とまずまずの内容でした。この発表の後は豪ドル買いが旺盛な展開となっています。市場では本日のRBA理事会を控えて、一部で予想されていた政策金利の引き下げ思惑が後退したものとみられます。ただし、設備投資計画は上方修正とはいえ、資源関連の減少で前年度計画からは減少しているため、あくまで過度な悲観予想よりは良かった、という程度の反発です。気の早い向きがすでに将来の利上げ期待を唱え始めたようですが、豪州は資源投資部門のピークアウトの穴埋めのために資源以外の内需回復を進める必要に迫られており、中国の成長鈍化や資源価格の低迷が続く以上は利上げは時期尚早と思われます。
また、内需回復寄与に期待される分野の一つである観光産業も豪ドル安の恩恵により、海外からの訪問者数は増加基調で今後も拡大が見込まれています。観光客の増加は小売、輸送、宿泊など多岐にわたる産業回復に繋るため、豪州の低金利政策は長期に渡ると思っています。政策が再び利上げ方向に大きく変わるためには、住宅価格のバブルが過度に進み、引き締めを余儀なくされた場合、あるいはコモディティ価格の上昇、中国の購買力の回復などのケースが考えられますが、現状その兆候はみられないようです。
ということで、豪州はまだまだ引き締めバイアスにはないため、昨年スティーブンス総裁が繰り返し「過去18か月の豪ドルは高すぎる」として牽制してきた18か月の豪ドルの下限レベルである0.95ドルは超えられないとみています。ただし、それでも米国金利がなかなか上昇しない「不思議」が解消されない現状では、放っておくと高金利通貨に資金が流入するという流れになることも否定できず、米国金利が上昇するまでは豪ドルやNZドルが買われやすい地合いとなる可能性も大きく、結果、上限0.95ドル下限は0.90ドル近辺でのボックス相場となるとみています。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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